東京慈恵会医科大学付属第三病院
2007年5月、東京慈恵会医科大学附属第三病院の地に森田療法センターがオープンしました。同センターは、森田療法に関する診療・教育・研究の先端的な役割を担い、この療法の国際的なセンターとして一層の普及と発展に寄与することを目的にしています。そこでこの機会に森田療法の現況とセンターの概要について紹介させていただきます。
森田療法は、慈恵医大精神医学講座初代教授の森田正馬が1919年に創始した、神経症に対する独自の精神療法です。元来の治療対象は強迫性障害、社会恐怖や広場恐怖などの恐怖症性不安障害、パニック障害、全般性不安障害、心気障害などでした。その後、遷延したうつ病や種々の心身症にも森田療法の適用が広げられ、また癌の患者さんのメンタルヘルスにも応用されています。
ところで、森田療法は創始者である森田正馬の自宅に患者さんを引き取って生活させたことが発端であり、以来、家庭的な環境のもとで入院治療を行うことが基本的な形態でした。しかしながら現在の日本では精神療法を専門にする入院施設を個人で運営することは難しくなっており、かつての高良興生院のような民間の森田療法入院施設は減少傾向にあります。他方、精神科クリニックが数多く誕生したこともあって、最近では外来(通院形式)で森田療法を行うところが急速に増加しています。また森田療法は、学生相談室や企業の健康相談室など教育や職場のメンタルヘルスにも導入されつつあります。さらに森田療法を基盤にした自助グループ(生活の発見会など)も全国で活発に活動を展開しています。このように森田療法は多様な形態に発展するとともに、それぞれの領域で治療や相談を担う人々同士の交流と連携がはかられているのが現状です。
こうした状況において、入院による森田療法はすでに過去のものになったのでしょうか。答えは否です。ここでは森田療法の原点である入院療法の意義をいま一度明らかにしておきましょう。もちろんクリニックの外来や相談室で森田療法が実施されるようになって、より多くの方々に門戸が広がったことは大いに歓迎すべき事態です。けれども1〜2週間に1回の面談や相談だけでは、なかなか改善に向かいにくい患者さんも少なくないという現実があります。ことに仕事や学校、ふだんの家庭での生活にも困難を来たしている方々には、一定の期間、入院生活を送り集中的に治療を行うことが、改善に向かう重要な転機になるということは改めて強調されてよいと思います。入院森田療法では単に外来に比べて治療者との接触の機会が増すというだけでなく、入院生活のあらゆる側面、あらゆる体験が治療のきっかけになります。こうした生活の実践を通して、不安や症状に流されず行動する姿勢をしっかりと身につけること、「あるがまま」の姿勢を体得することがもっとも確実な回復の土台になるのです。もちろん入院の期間だけで治療が完結するとは限りません。入院の前に外来での面接を通して治療が始まり、また退院後の通院によって治療的変化を一層確かなものにすること、あるいは通院と並行して自助グループにも参加し、様々な機会を通して森田療法を学びなおすこともまた大切です。このように私たちは、入院か外来か、あるいは自助グループかという3者択一ではなく、ゆるやかな治療の流れの重要な一局面に入院治療を位置づけています。
森田正馬が初代精神科教授を務めた慈恵医大は、森田療法の発祥の地ということができます。1972年には東京都狛江市の東京慈恵会医科大学附属第三病院に10床の森田療法室が設置されました。1984年には新たに地上2階、地下1階の森田療法棟が竣工し、病棟は20床に増床されました。この建物を全面的にリニューアルして、2007年5月に誕生したのが森田療法センターです。
以下、センター各部門について簡単に紹介することにします。
先に述べたように、入院森田療法には他の形態に換えがたい治療的意義があります。しかし90年ほど前に誕生した入院森田療法を、そっくりそのまま実施することは時代の変化にそぐわない面もあるでしょう。そこで森田療法の原点を大切にしながら、現代にふさわしい入院治療を提供することが重要な役割であり、そのような新しい入院療法を当センターの診療の中心においています。センターの病棟では医師だけでなく臨床心理士や看護師ら多職種のスタッフが治療に関わっています。また患者さんの作業や生活に関する種々のグループを治療的に活用しています。さらには精神科以外の診療科と連携して、必要に応じて身体医学的なケアも併せて行います。たとえば入院前にストレスに対する不適切な対処を続けた結果、メタボリックシンドロームを併発している患者さんには、精神科医と平行して内科医が診察、投薬に当たり、看護師は生活指導を、栄養士は食事指導を行うというようにチーム医療によって心身両面の治療を提供しています。
入院は森田療法の伝統にしたがって4期の治療期間から構成されています。患者さんには担当の医師や臨床心理士がついて、面接や日記を通した指導が行われます。
平均の入院期間は3ヶ月間程度ですが、必要に応じて外来施設との連携のもとに1ヶ月以内の短期入院治療も可能です。治療には健康保険が適用されますが、室料差額の負担をお願いしています。
今回のセンター化に当たり病棟は全面的に改装され、「病院らしくない空間」をコンセプトに木目を基調にしたインテリアで統一されました。ミーティングルームや作業室は明るく広々としており、オープンな雰囲気を有しています。病室は計20床で、二人部屋9室(軽作業期までは原則として個室使用)と臥褥専用の和室2室があります。
仕事や学校に通いながら治療を受けたい方のために、また入院治療の準備やアフターケアとして、当センターでは外来での森田療法も完全予約制で行っています。外来治療では面接や日記指導を通じて,患者さんが症状にとらわれた自己の在り方と生の欲望を自覚すること,不安のまま生の欲望にしたがって行動を広げ生活全体を充実させることを援助していきます。
新たに設置された森田療法センター外来には、4室の面接室のほかグループ療法室も用意され、近々グループによる外来森田療法も開始される予定です。
これまでも国内はもとより中国、米国、イスラエル、フィンランドなど海外から多数の医師や臨床心理士の森田療法研修を受け入れてきましたが、センター化を機に研修プログラムを一層充実させ、受け入れの拡大を予定しています。
これまでの主な研究は森田療法の効果に関する研究、入院治療構造・技法の研究、社会恐怖や強迫性障害など神経症および近縁の病態の精神病理学的研究などですが、今後、退院患者さんの長期経過に関する研究、標準的な外来療法を整備するための研究なども予定しています。さらに内外の複数の施設と連携しながら国際的・学際的研究を推進することが森田療法センターの重要な役割です。こうした研究の拠点として、センター内には森田療法関係の図書・文献を豊富に備えた図書資料室を設置しました。ここから森田療法に関する様々な情報が世界の専門家に向けて発信されていきます。
以上、森田療法の現況と入院療法の意義を述べ、東京慈恵会医科大学森田療法センターの概要を紹介してまいりました。センターと入院療法についてもっと詳しくお知りになりたい方には、慈恵医大森田療法センター編、『新時代の森田療法』(白揚社)をお勧めします。
また当センターのホームページにも紹介がありますのでご参照ください。
なお治療をご希望の方は、先ず東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科外来を受診していただき、治療の適否を判断いたします。他の医療機関に通院中の方は、なるべく紹介状をご持参ください。
◆2007年4月21日(土)
◆2006年7月21日(土)
◆2006年9月1日(土)
◆今後の予定
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