Lさんは、何度も何度も死にたくなり、今は死にたくなることへの不安が強いと感じている状況なのですね。裏目に出てしまったと書かれていますが、心の修行をしたり、不安症の勉強をしたり、ご自分なりに努力をされてきたのですね。このようなご様子からすると、よりよい方向を目指して取り組んでいく力があるのだろうと思います。それはとても大事なことですし、Lさんの良いところではないでしょうか。辛い中でも、本当に頑張ってきたのですね。
一方で、“心穏やかに生きたいと思っているのに、現実が上手く行かなくて、どうせ自分は一生苦しいまま、苦しみに耐えて生きるしかないと生の欲望を諦めようとしてしまう”というLさんもいるようです。しかしLさんはこうも書いています。“でもやっぱり平穏に生きたい。どんな状況でも生の欲望を諦めなくてもいいですか?”と。生の欲望、もちろん諦める必要はありません。ここで大事なことは、何を諦めず、何を諦めてみるのかということではないでしょうか。
心穏やかに生きるということがLさんの望む生活なのだとすると、具体的にどのような生活を想像されますか?もし、現実がうまく運び、苦しむことがない生活を想像するとしたら、それは少し難しいことかもしれません。現実に生きていれば、事が上手く運ぶこともあれば、上手く行かずに落ち込むこともありますね。片方だけを望むということは、残念ながら難しいことなのでしょう。ただ、全てうまくいくということは望めなかったとしても、自分が望む生活そのものは諦めずに出来ることはあると思いますよ。せっかくよりよい方向を目指して取り組む力があるLさんですから、そこで諦めてしまってはLさんの良さが発揮されなくなってしまいます。自分の望む穏やかな生活に向けてできることを探ってみてほしいと思います。
そして、うまくいかない時、苦しみに耐える以外のやり方もきっとあるはずです。例えば誰かに話を聴いてもらったり、少し時間を置いてみたり、あるいは何か好きな事に取り組んでみたり。苦しみの抜け道も探れば見えてきそうです。思い通りにいかない時にいろいろな気持ちになることも自然なこと。揺れ動きながらでも望む生活は諦めずに、出来る工夫を取り入れながら自分の生活を形作っていただきたいと思います。Lさん、応援しています。
(渡辺志帆)
Sさんは5年ほど前から職場・ご家族のさまざまな状況が次々と起こり、その後心療内科でうつ状態と診断され4カ月仕事を休んだこと、復職後一時身体の症状も治まり勤務制限も外れたこと、その後も手足のこわばりが出るなどしている経過を書き込まれています。「よくなっている実感はあるが、身体症状等がなくならないので、つらくなるときがある」と書き込まれています。ここまで治療をしながら仕事に復帰し粘ってこられたのですね。Sさんの状態は書き込みからだけでは判断できませんので、一般的な、長い経過のうつを持ちつつ仕事をすることと森田療法、という視点で書いていきたいと思います。
一般的にうつは長い経過となることも少なくなく、経過には波も伴うものです。「この身体症状がなかったらどんなに仕事もしやすいことだろう」とやり切れない思いに駆られることもあるでしょう。「調子が良いときならなんてことない仕事なのに」ともどかしく感じることもあるかもしれません。そうしたとき「これではダメだ」と自分を責めてしまいがちです。そうしたとき「今調子が悪いようだ」と受け止め方を転換することも大切になります(責めることはより消耗することに繋がります)。
経過を振り返ってまとめておられますので、調子を崩しやすい状況やストレスを感じやすい状況も整理されていることでしょう。書き込もうと思った=もう一度整理しようと思ったタイミングで、できるだけ具体的に整理してみるとよいかもしれません。
さて、北西憲二先生の著書の中に慢性のうつの養生における「削ること」と「ふくらますこと」という記述があります。ご自身にとって何を削るのかー完全主義的なやり方になっていないか、抱え込んでしまっていないか(引き受けすぎてしまう、断れない、自分でやってしまった方が早いなど)、人との関わりを良くしようとしすぎていないか、など。人との関わり方も評価や「良く思われること」に重きを置きすぎず、トーンを一段下げて、簡潔に伝えるということです。そしてふくらませた方がよいこととしては、身体の感覚、~したいという欲求など。
仕事をしながら治療では、どうしても自分のペースに調整がしづらいことが難しいところです。フォーラムを見るといろいろな方が自分なりの工夫をしながら仕事をされている様子が書かれていますので、ご自身に参考になるやり方を取り入れ試行錯誤していくのがよいでしょう。そのときにも波に応じた仕事の仕方、という森田の知恵が応用できます。例えば一日の中でも仕事の始まり、特に午前中にきつく感じることも多いので、比較的ルーチンな仕事から始め、温まってきた感じが出てきたら考えることや人と関わる仕事を入れていくなど。
抱え込まないこととも関係しますが、人との関わりでもいろいろな頼り方をする、できないこと、うまくいかないことを飲み込まず力まず伝えていきましょう。体調のことは誰にでも話すという訳にいかないと思いますが、症状のことを話して頼るや、必ずしも話さなくてもちょっとした愚痴を言い合える、うまくいかないことを共有できる・・ さまざまな支えられ方があるといいですね。薬のことなど都度相談できているようですが、余裕がない中でも通院の時間は確保し、主治医の先生とも相談し、日々を積み重ねていきましょう。
(塩路理恵子)
Tさんは不眠症と自律神経失調症と体の病気もあって、休職されてフォーラムに参加されました。参加された当初は復職への焦りもあり、睡眠薬を使ったり、なんとか眠れるようにと工夫されているにもかかわらず、寝れなかった日はイライラしたり、倦怠感が辛く、落ち着かないといった状態が続いていたようです。その後、フォーラムの中で、「かくあるべし」ではなく、あるがままに受け入れる心の柔軟性が必要であると気付かれ、休職2ヵ月程で復職されたとのことです。その後、いかがお過ごしでしょうか。
そこで、今回は心の柔軟性について、お話しさせていただきます。突然ですが、皆様の「強い」というイメージはどんなものでしょうか。一般には「力や技が優れていること」や、「心身が丈夫であること」などを指すと思います。気持ちの強さという面では「物事に屈しない精神力」という意味もあるかと思います。「丈夫」とか「物事に屈しない」というと、「固くて壊れない」というようなものをイメージされるかもしれません。確かに、固くて壊れない物もあるかと思いますが、それを上回る力が加わると、パキッと折れたり、ひび割れたりしてしまいますね。一方で、柔らかく、しなやかな物はどうでしょうか。しなやかな物は外からの力によって、曲がりますが、なかなか折れません。枯れた木の固さと、若い木の柔らかさをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
これを心(気持ち)に当てはめてみると、固い強さは頑固、しなやかな強さは心の柔軟さ、という感じでしょうか。私たちは生活している中で、時には「譲れない」と頑固になることも必要かもしれません。ただ一方で、頑固が過ぎて意固地になると、窮屈になってしまいますし、強い力(ストレス)がかかったときに、心がパキッと折れてしまうかもしれません。そんな時には、心を柔らかく、しなやかにすれば、折れずにすむと思います。このように、頑固になって、苦しくなったときに、より心を固くするのではなく、心の柔軟性を取り戻すと、楽になるのではないでしょうか。Tさんも含め、皆様、身体も心もストレッチして、「しなやかな強さ」を身につけていってくださいね。
(谷井一夫)
Kさんは20代にうつ症状を経験し、うつ病の治療を受けていらした中で、「これだけ動けているのはうつ病ではない。神経過敏で不安がものすごく大きい特性がある」と医師に言われ、森田神経質の性格に自分がばっちり当てはまっていることをこのサイトで知り、経験談を読んだり、相談されたいと思われたとのことです。
お父様は仕事に明け暮れ、お母さまは感情的で叱り方も激しい方だったが、その後うつ病を患われて人が大きく変わってしまったことも記されていました。子どもは自分の気持ちを受け入れてもらうことで、自分もその気持ちを受け止めていくことができるようになっていきます。それだけ細やかに感じる子どもがそういった環境におかれて、十分なサポートや自分の心情を十分に理解してもらう機会がない中で過ごさなくてはいけなかったのだとすると、どんなに大変なことだったでしょう。強い感情に圧倒されたままになったり、自分に批判的になって、自分の感じ方や性格の肯定的な面に気づき、それを統合していくことがこれまでなかったかもしれません。
神経質性格は一言で言うと、生の欲望が旺盛(向上心が強く、そして傷つきたくないという自己保存の気持ちも強い)な一方で、とても自己内省が強い特徴があります(自分の足りないところに目が行き、反省をしがちで融通が利かない)。こういった自分の性格の特徴を受け入れられると長所となるけれども、隠そうとしたり、とにかく傷つかないように体面を保とうとしたりすると、短所となって、症状に発展したり、苦しみを味わうことになります。
Kさんが治療の中で、これまでの自分の人生を振り返り、忘れられない記憶や心に残っていることの一つ一つを振り返って、自分が望んでいたことと思うようでなかったこと、自分の悔しさや喜び、自分なりに工夫してやって来ていたところを治療者と細かく味わっていかれる中で、自分の良さや自分の生かし方について、自覚されることが増えるのではないかと思います。森田先生は患者に気質としての神経質のすばらしさを伝え、己の在り方を深く自覚することが根本的な治癒につながると強調されていました(岩木、日本森田療法学会雑誌2022)。
ぜひこのことがKさんにも繋がるように願っています。
(矢野勝治)