Rさんは幼い頃から人と話すときに緊張しやすく、人間関係を築くことが苦手で、社会人になってからもコミュニケーションがうまくとれずに転職を繰り返されていました。また、どうしても他者の顔色や周りの反応ばかり気にして、他の人と比べて劣等感を感じてしまうということです。そして、Rさんはご結婚され、これから子供ができて、今の状態のままで母親になることを恐れていました。また、友達が少ないことや人間関係が乏しいことを劣等感に感じて、うまくやろうと頑張るものの、疲れて、時には「一人でも良いのでは」と思いながらも、一人の時間が長くなると苦しくなり、さらに、友達と会っても「嫌われたくない、また会いたいと思って欲しい」という気持ちが強くあまり楽しめないということです。Rさんの理想は「自然に楽しく人と繋がり、人に囲まれながら幸せに暮らす」ということですが、何から取り組んでよいのか分からなくなってしまうこともあり、フォーラムに参加されました。
Rさんはフォーラムに参加された当初は症状から視野が狭くなっていたようですが、少しずつ視野が広がり、「今自分が出来ることや今いる人たちを大切にすること」などが見えていなかったと気づき、家事や勉強、映画や読書などの好きなことをやって、日常生活を充実させていこうと考えていらっしゃいます。「今自分が出来ることや今いる人を大切にすること」、とても大切な点に気づかれていて素晴らしいと思います。
Rさんはご結婚され、妻となり、今後母親になることを想定して、今の対人恐怖があるままでは、うまくいかないのではないか、と心配されたのだろうと思います。今の状態ではこの先うまくやっていけないのではないか、という不安を「適応不安」といいます。この適応不安は環境の変化などがあったときには出やすいものです。ただ、一方で、この適応不安は「うまくやっていきたい」という大切な欲求があるからこそのものともいえます。Rさんは妻として、母親として「うまくやっていきたい」という思いがあるからこそ、不安も強くなったのではないでしょうか。このように、不安の裏側には大切な欲求があり、両方ともに、とても自然な感情で、無くせるものではないものだと思います。しかし、こんなことで「不安になってはいけない」とか、「この不安を克服しなくてはいけない」と身構えて、この不安を無くそうとするとますます不安にとらわれて、身動きできなくなってしまうものです。
ですから、Rさんがお気付きのように、先々の不安(適応不安)は棚上げして、今出来ること、にエネルギーを向けていくことが良いと思います。今出来ること、家事・仕事・ボランティア・勉強・映画や読書などの趣味、そして、今周りにいる人たちを大切にすること、Rさんには色々とあるようですね。このことを忘れずに今の生活を少しずつ充実させていってくださいね。応援しています。
(谷井一夫)
Sさんは人からどう見られるかが怖く、また他人が自分を貶めようとしてきたらどうしようと想像し不安になることもあるとのことです。それだけいろいろ気になるとすると、怖さも大きいでしょうし、人と接する時も大変エネルギーを使うでしょう。
そんな中でバイトをしたいと考えられているのはとても大きなことですね。ちなみに、バイトを始めたいのはどうしてですか?バイトを通じて症状を克服したいのでしょうか。それとも必要なお金があったり、ある職域で経験を積みたいなど他に何か理由があるのでしょうか。
バイトを見つけて収入を得るのが目標だとすると、自分の得意なことを活かして、まずは対人接触の少ないところから少しずつ始めていくのもよいかと思います。人間関係や信頼は仕事を通して長い時間をかけて培われていくものです。Sさんの強みや得意なことはどんなことですか。得意なことというのは、特技や技能だけではなく、力が強いとか、一つ一つこまごまとしたことをやるのが好きとか、丁寧さといった身体面や性格面での特徴や好みも含んでのことです。どんなことだったら仕事の内容として自分にとってやりやすいか、どういうバイト先だったら自分に良さそうかを考えてみてください。期間も短いものから始めるのもよいかもしれません。
履歴書の作成、申し込み、面接などアルバイトを始めるまでのステップも対人場面を含みますね。アルバイト採用者との対応でも、「もしかしたら(相手は○○と考えているんじゃないか等)」の不安が生じるかもしれませんが、「もしかしたらの不安」と目の前に実際に起きている事実を分けて、「もしかしたら」の不安はいったん棚上げにして、先方から送られてきた内容や実際に言われたことなど事実に目をやるようにして進めてください。
具体的なステップは小さく、少しずつ進めて、できた自分を褒めて励ましながら進めてください。戸惑うことや疑問に思うことがあったら、体験フォーラムの場をどんどん活用してください。応援しています。
(矢野勝治)