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症状別アドバイス集

普通神経症の部屋

「手の震えは悪いこと?相手に内容が伝わればよし」 '18.12 

Sさん、はじめまして。

人前で手の震えがあると、緊張して恥ずかしいという意識が強くなり辛い思いをされているということですね。詳細はわかりませんが、手の震えが出やすい薬を飲んでいるとのことですから、なおさら辛いことと思います。

まずごく一般的に医者の視点からお話ししますと、Sさんの場合、他の身体症状はないようですので神経内科の病気は考えづらいです。“人前で”、“緊張すると”、という状況下で手の震えが悪化しやすいようですので、生理的振戦+薬の副作用の範疇と思います。震え自体は心配する症状ではないでしょう。

一人でリラックスしている時に、ご自身の手をよく観察されてください。どんな人でも手はわずかに震えているはずです。人間の筋肉の動きは脳が制御していますが、ロボットのように、ピタッと動きを止めることはできない事実があります。他の人の手を観察してみるのもよいかもしれません。

ある程度の手の震えは正常な生理現象の一つではありますが、一方で精神的負荷がかかると強く症状が出ることも事実です。悔しい、悲しいという感情が伴っているようですので、「恥ずかしい姿をみられたくない」「緊張を悟られたくない」「本当はこんなはずじゃない」という気持ちも強いのではないかと感じました。

森田療法では、不安や緊張の裏には生の欲求(人に認めれたい、評価されたい)があると考えます。緊張したり、恥ずかしく思うこと自体は、誰にも迷惑をかけていません。他者からすれば、「緊張してそうだけど、一生懸命やっている人」など好印象を持たれるかもしれません。少なくとも、私は手がひどく震える人に会って不快に感じたことはありません。

手が震えてきた時は、「ああ、自分は一生懸命やろうと頑張っているのだ」と自分に声をかけてあげてください。手の震えは“そのままに”。そして、相手に自分の伝えたいことが伝えられるように、誠意を尽くしてください。自分の手の震えがどうなっているかを観察するのではなく、字がギザギザになってよいですから、読めるように少し大きめにゆっくりと書くことを心がけてください。次第に不快な感情は去り、いずれ震えも減っていくと思います。
(鈴木優一)

「割り切れない気持ちが生じるのも現実(自然)」 '18.11 

Sさんは「まわりの人の視線や心身の不調、天気などに対していちいち敏感に反応し、その気持ちに振り回されてやるべきことがやれず、過ごしにくいと感じている」とのことでした。このフォーラムで森田療法を学ぶ中で、自分なりに視点や行動を変えようと努めていらっしゃるようですが、“達成したい目標がない”“これをやっても、まわりにとっては当たり前なのに”と行動(目標)を放棄し元の状態に戻ってしまう・・・と書かれていました。

確かに、理想通りにならないことは不愉快ですし、人間関係などで周囲の思惑が気になるのも自然なことです。とはいえ、そうした気分や不快感に振り回されること(振り回されて行動すること)を森田は『気分本位』と呼びました。そして、それを修正するために「今、出来ること」に手を出すよう促したわけです。目的本位・・・というと、何か価値があることに取り組まなければならないと考えがちかもしれませんし、きちんと目標を決めなければ・・・と思うかもしれませんが、そこまで堅苦しく考える必要はありません。家事でも育児でも、『とりあえず』やれそうなこと、出来そうなことに手を出してみるということです。

当初は不快感があっても、行動と共に注意は目の前のことに移っていくものです。そして、それと共に感情も流れていきます。「気分を整えてから・・・」と考えれば不快な気分に注意が集中してしまいますが、気分が整わないままに、行動をしてみて、そこでどんなことを体験するかを自分なりに観察してみましょう。

理想通り、思い通りの結果が得られないと、どうしても納得がいかない気持ちや割り切れない思いが残ると思いますが、それも自然な感情です。言い換えれば「納得できる結果」を求め過ぎるがゆえに、スッキリしない気持ちを強く感じてしまう・・ということでしょう。

実際、Sさんも触れていたように「出来ない自分を認める、受け入れる」ということはなかなか難しいことです。ただ、がっかりしたり、割り切れないからといって「自分を責める、あるいはその行動自体を避ける」方が、もっと後味が悪くなってしまうでしょう。「すぐに」結果を出そうとせず、納得できないのも、割り切れないのも自然な気持ちと受けとめ、せめて自分なりに「ゼロ」にしない行動・生活を心がけてみることが重要でしょう。

理想から自分を見下ろすのではなく、「今の自分」を出発点にして、一歩一歩積み上げていくつもりで生活をしていくと、色々な気分を受けとめる器も少しずつ広がっていくと思います。
(久保田幹子)

「めまいの背後に隠れている力」 '18.10 

Nさんのように、耳鼻科に行っても治らない強いめまいで、森田療法を求めて外来を受診される方は以前より増えたように思います。耳鼻科の治療を受けながら森田療法を受けていた方もいらっしゃいました。

Nさんは自殺を考えるほどの強いめまいが起きるとのこと、とてもつらい状況の中、ウォーキングなど好きなことをして過ごしていらっしゃって素晴らしいと思います。めまいの中でもこれだけ活動できているのであれば、Nさんがおっしゃるように社会復帰について主治医と相談できるかと思います。

私が以前診察していた方の中にも、めまいがあっても社会復帰を果たされた方がいます。そのAさんに初めてお会いした時、Aさんは家族に支えられなければ歩けないほどの強いめまいで、ふらふらと歩いていらっしゃいました。Aさんの意志で入院森田療法を決断され、Aさんは家族と離れて一人で自分の生活をしなければならなくなり、初めはとても不安そうでした。しかし入院生活でスタッフはAさんを助けるのではなく、ほとんどは自分自身でやって頂き、本当にできないことだけ手を貸すようにしました。

このことにAさんは初め不満を持っていました。やはり病院なので、スタッフが助けてくれるべきではないのかと思われたでしょうね。しかしAさんは徐々に変わっていきました。めまいはもちろん続いていましたが、一人でできる事が増えていきました。遂には、得意だった動物の世話を他の患者さんに率先して行うようになり、入院の終わりには別人のようになりました。担当医をしていた私は、めまいはまだ残っているのに、どうしてこのように変わることができたのかと不思議に思ったものです。この不思議な力は、Aさんの中に隠れていた力から来ていました。退院後はAさんもめまいの他に不眠の症状を訴えていましたが、外でアルバイトをしたりなどに忙しく、訴えに挙がらないようになりました。

このようにめまいの患者さんの中には、症状の背後に隠れていた力を持っていらっしゃる方がたくさんいます。その力(つまり生の欲望です)を生かすと、人生が変わっていくのだなと実感しました。

Nさんの文章を読んでいると、つらいながらも活動していて生の欲望を強く感じます。今でも素晴らしいですが、それを仲間の中や社会の中で生かしていくと、より変わっていくのではないかと思います。
(大久保菜奈子)

「新しく仕事を始める前の緊張」 '18.9 

Kさんは新しい仕事が決まり、初出勤を前に余計に眠れなくなってしまったとのことです。退職後、次の仕事が決まるまでの期間はなかなか大変ですよね(神経も使いますし、体力的にも心理的にも)。その中で次のお仕事を決められたことはすごいことですね。

中途覚醒で途中目が覚めてから眠れないパターンはなかなか辛いと思いますが、眠れないことが不安なのはどうしてでしょうか。
 不眠恐怖に悩んでおられる方の話を伺うと、ちゃんと寝て睡眠をとっておかないと、翌日の仕事に差し障ること、そしてそれが今後の自分の職場での対人関係やキャリアに傷をつける可能性を心配されていることが多い印象を受けます。特に新しい職場に行く場合には、しっかりできていないとその後の仕事がしにくくなる、評価が下がるのではないかと心配になるかもしれません。Kさんはいかがでしょうか。

睡眠は完璧を求めれば求めるほど難しいところがあります。しっかり眠れていないと何が不安なのか自分の心をよく見つめてみましょう。不眠恐怖の裏に、仕事や職場に対する自分の他の心配が隠れている場合もあります。
 そして、あまり眠れないままに職場に行った場合に、実際本当にミスをするのかどうか、実際に何か問題が生じているのか、そういった具体的な事実を見てみましょう。よりよい自分をみせなくてはと思うと緊張はどうしても高まるものです。

森田先生は不眠恐怖について「神経質が、不眠なり強迫観念なりを治したい、苦しいことが楽になりたい。それは当然のことである。しかし一度これは病気ではないから、治すべきはずのものでないということを知れば、これを度外視して、普通の人のように働く。そのうちに、仕事に心を奪われて治そうとすることを忘れる。そうして治るのである」(森田正馬全集㈸ 185)と述べられています。

Kさんの今持っておられる力が評価されて、採用されたわけですから、心細さは心細いままに、苦手なことがあれば苦手は苦手として、目の前の仕事に最善を尽くすことで、道は開けてくるはずです。最初は身体も疲れると思いますが、評価や結果はやる中で徐々に積み重なってくると思います。どんな小さなことでも構いませんので、また変化があったらご相談くださいね。
(今村祐子)

「身体の症状が気になる」 '18.8 

2018年8月は「病気を気にすること」が投稿されています。
Tさんは熱を出し、大きな病気ではないかと思うようになり毎日泣いていて、心療内科に通っているが家族に症状を理解してもらえないとのことです。Uさんはお子さんの体調の変化を見つけては気にして病院に行って検査しないと気が済まないことを繰り返しているとのことです。

皆さんもコメントされていますが、よりよく生きようと思いが強いと病気になりたくないという思いが生じ、さらには病気になりたくないという思いから、身体の状態を過剰に気にするようになり症状の細部にとらわれてしまいます。よりよく生きようという思いは周囲にも理解しやすく共感も得られやすいのですが、身体の些細な症状にとらわれていると、周囲には理解されにくく辛い思いをされることが多くなります。

「頭では納得できるのですが、身体が理解できていないような感覚」と書かれています。そうですね、森田療法で苦労されることのひとつに、理解していることを実践することの難しさがあると思います。そんなときには、例えば(お子さんに健やかに成長して欲しい)(健康で自分らしい生活を続けたい)など、自分は何を気にしていたのか、どうしたいのかを考えてみて下さい。自ずと進むべき道が見えてきて周囲とも共有できると思います。

そしてその思いに沿って(体調を気にしながら、お子さんの体調が気になりながらも)身近な家のことなど目の前のやるべきことをやっていきましょう。
(矢野勝治)

「コントロールできないものはそのままに」 '18.7 

Hさんは早朝覚醒と理由のない不安感があり、また、対人ストレスから、他者の言動を悪く受け止めてしまいやすくなって、困っていらっしゃいます。そして、睡眠薬は副作用で中止しており、電話でのカウンセリングや有料カウンセリングも効果がなかったようです。

睡眠が上手く取れないと、辛いですよね。また、他者の言動に対しても必要以上に悪く考えてしまうのも苦しいですよね。確かに睡眠が思ったようにしっかりととれると、気分も良いものです。しかし、残念ながら、睡眠というのは自分の意思でコントールすることは出来ないものです。その日の疲れ具合や調子などによって、身体や脳が勝手に自分を睡眠状態にさせている、といっても良いかもしれません。

睡眠さえしっかりととれれば、という考えにとらわれると、「しっかりと睡眠をとらなくてはならない」「そのためには睡眠の邪魔になるものを排除しなくてはならない」と考えて、現在抱えている不安や悩みもすぐにすっきりさせようとする態度に繋がりやすいものです。そうなると、対人関係で起きた気になることなどを寝る前などに、反芻して「あの言動は〇〇さんが〜と思ったかもしれない」などと色々と考えてしまい、結果的にはますます不安も強くなり、ますます眠れなくなってしまいます。これが不眠や不安を強くする悪循環かもしれません。

残念ながら、我々は、他者の言動に関して、本当にその人がどんな気持ちや考えでその言動に至ったかを知るすべはありません。そうだとするならば、我々に出来ることは、できるだけ、他者に配慮しながら、自分の言動を整えていくことなのではないでしょうか。

睡眠に関しても、対人関係に関しても、共通して言えることは、全て自分の頭で考えて答えが出ないもので、自分でコントロールしようとしても、コントロール出来ないという点だと思います。

今、Hさんが出来ること、つまり自分でコントロールできることはなんでしょうか。どんなことでも良いと思います。ちょっとずつ、出来ることに手をつけていき、普段の生活を充実させていくことが、睡眠や対人関係などの悩みなど、頭ではコントロール出来ないことを「あるがまま」にして、悪循環から抜けていくコツだと思います。是非とも頑張ってくださいね。
(谷井一夫)

「精神的緊張について」 '18.6 

Hさん、初めまして。頻回なゲップに悩まされているようですね。ゲップは自分の意思とは関係なく一方的にやって来ますから、さぞかし辛かったと思います。ましてや下痢や嘔吐、最終的には突発的な不安や脳の痺れなどに襲われたとしたら、その苦痛は相当なものでしょう。ただ、適切な形で医療機関に繋がり、全般性不安障害という診断のもと向精神薬が処方され軽快に至ったことは幸いだったと思います。

この一連の流れから、私は様々な自律神経症状や不安の背景には、慢性的な緊張があるのではないかと考えました。文面にこそ表れていませんが、Hさんは日頃様々なことに奮闘し、かなり頑張られているのではないでしょうか。その分だけ、気を張り詰め、緊張を作り出しているように感じました。我々は一般的に不安になるから緊張すると思いがちですが、緊張が不安を引き起こすという点にも注目する必要があります。そうであるとすれば、緊張を和らげるための生活上の手立てを模索することが、回復の道標になります。

まず、睡眠は十分とれていますか。脳の休息は緊張緩和の要です。つい我々は夜更かしをしがちですが、それは睡眠負債をため込み、緊張の抜けない体を作っていることに他なりません。また運動を通した体作りも忘れはいけません。何も激しい運動を奨励するつもりはありませんが、便利な文明社会に頼り切っている我々は、筋肉を鈍らせることが当たり前になってしまいました。やせ細りしなやかさを失った筋肉は、外的な変化やストレスに対し容易に緊張を募らせるようになってしまったのです。それ故、ちょっとしたストレッチ、ウォーキングなどを通した体力増進は、緊張を持ち堪える上での安定剤的役割を果たすだけでなく、自律神経バランスの改善にも一石を投じています。

勿論、このような取り組みがすぐに効果を発揮する訳ではありませんが、健全な肉体に健全な精神が宿るという言葉のように、体の健康を見直すことが心の健康回復の最大の近道と考えて頂ければと思います。まだまだ大変な最中とは思いますが、より良い回復を願っております。
(樋之口潤一郎)

「普通神経質と森田療法」 '18.5 

Tさんは「私は今39歳ですが18歳ぐらいから、 起きている間は常時、浮遊性めまいに悩まされています。 心療内科にもかかりましたが、私にはなかなか薬が効かないようです。」と書き込まれています。 20年あまり、浮動性のめまいを抱えながら生活されてきているのですね。

めまいは、通常の「身を起こして活動する」ことを揺るがす症状なので、森田は、種々の身体の不調や、不快な感覚にとらわれているものを普通神経質と呼びました。症状としては頭痛、めまい、頭内のもうろう感、身体の倦怠感、耳鳴り、胃腸症状、不眠などが挙げられています。現代のICD分類では身体表現性障害(最近のDSM5では身体症状症と呼びます)の一部、全般性不安障害の一部に重なるとされています。森田先生は普通神経質を神経質の典型と考えました。そして身体的な不調や違和感、不快な感覚に対し、不安な注意を向けることでますます感覚も鋭敏となり、不調が強くなるというように、注意と感覚に悪循環が起こることが言われています。身体症状ではとくにこの「感覚の鋭化」は、症状を強め固定するものになります。 さらに神経質の人では、「仕事、勉強を円滑に進めるためには体調を整えておかなくては」といった「かくあるべし」が強く、前記のような悪循環をひき起こしやすい、とも言われています。

Tさんも20年余り症状に悩み、薬もあまり効かないということで、森田療法にたどりつかれたとのこと。フォーラムの皆さんの体験やアドバイスを参考にしながら、少しずつ行動、生活を広げてみてください。

なお、めまいの症状を持つ方は、「体調が悪くならないように」と生活を狭めてしまったり、横になりがちになることでかえって生活が不規則になり、自律神経のバランスが乱れてしまうことがままあります。まずは生活リズムを整えることから取り組んでみるのもよいと思います。
(塩路理恵子)

「心気症に対する森田療法」 '18.4 

 Oさん、病気の心配で辛そうですね。血便のことから今度は卵巣の心配へ対象が移っていますね。

病気の心配をする神経症の中には「心気障害」というものがあります。まさに「心に気に病む」という言葉がぴったりで、専門的にはICD10という国際分類を紐解くと「(1)繰り返される検査により説明困難であるにも関わらず重大な体の病気が存在するという頑固なとらわれ」、「(2)何人かの医師からの保証を受け入れない」ことが定義とされています。Oさんは(2)については微妙でしょうか。血便についてはある程度医師の説明をご納得されているようですが、卵巣については不安が募っているので(2)を満たすことになるかもしれませんね。

まず心気障害に対する一般的なアドヴァイスを致しますね。まず病気ではないかと心配で色々な身体の病院へかからないことです。その都度身体科の医師であれば一通りの検査を致します。それを多くの施設で行うことに意味はありません。世の中には色々な医師がいて不安な面もあるかもしれません。しかしご自身が通われている医師がきちんと誠意をもって診療してくれているのであれば、その先生のアドヴァイスを受け入れ、診察ペースは医師の指示通りにした方が良いと思います。また心気障害の患者さんは得てして自分の感情を言葉にすることができない場合が多いです。体の心配が大きくなった時、「自分はどう思ったかな?」とか、「どう感じたかな?」を自らに問い直してみて下さい。

この上で心気障害に対する森田療法の考え方を示します。森田療法では病気を心配する背後に「健康でありたい気持ちが強い」(=生の欲望が強い)と理解します。不安と欲求とは表裏一体のものであり,その両面を有することが自然な心のあり方です。このような自然な感情としての不安を排除しようとすればするほどますます不安は増大するという悪循環にはまってしまいます。そこで森田療法では不安を排除することをやめ、不安を抱えつつ不安の裏にある本来の欲求(生の欲望)に従って行動することを推奨します。これを端的に表現した言葉が「あるがまま」です。つまり森田療法は不安に対する態度の転換を図っていきます。「病気の心配」を排除しようとせず、「病気の心配を抱えつつ」、今「本当にしたいこと」をしていくことが大事になると思います。Oさんご参考になさって下さい。
(舘野歩)

「“時間”を味方につけてみましょう」 '18.3 

Mさんは体調不良になると、なにか大きな病気ではないかと不安になり、またその不安を解消すべく全力でいろいろな方面から原因を調べるけれども不安はなくならず体調も悪い、といったことで悩んでいらっしゃるということですね。

医師の立場から少しお話ししたいと思います。医師は患者さんを診察する際、体調不良の原因として、かぜ症候群といった自然に回復する病気から、癌や免疫疾患等の命に関わる病気まで、幅広い病気を鑑別に上げて診察を行っています。Mさんが書き込みされている通り、医師も完璧ではないでしょう。臨床経験があり優秀な医師は、自分が完璧でないことを自覚しており、初めて会った患者さんをその日に完璧に見立てるのは不可能であることを知っています。そこで、どんな工夫をしているかと言うと、“時間”を味方につけることです。自然回復が見込まれる患者さんの場合は、再診までの間隔を空け、この患者さんはなにか病気が隠れていると判断すれば、再診までの間隔を短くします。いわゆる“経過観察”というものです。“経過をみる”ということも立派な治療であります。

Mさんは体調不良になり医師の診察を受けた際、100%の保証を求めていないでしょうか?実は医師も常に不安を抱えています。“時間”を味方につけて日々の診療が適切に行われるように工夫しているのです。次回診察を受ける際に医師に聞いてみるとよいかもしれません。医師と信頼関係が築けるとよいと思います。

それから、Mさんは不安になるとインターネットで体調不良の原因を調べられるのですね。インターネットは便利な道具ですが、嘘も本当も混じっています。薬のことも賛否両論いろんな考えがインターネットには載っていると思います。Mさんもご自覚されていると思いますが、調べれば調べるほど不安は増強するものです。インターネットに割く時間を○分と決めて切り上げ、不安な気持ちはそのままに、その日やるべきことに意識を向けられるとよいでしょう。

森田療法の言葉を借りれば、不安の裏には生の欲求があるということ、不安を抱えながらも建設的な生活を実践することにより、生の欲求が賦活されるということです。

Mさんは、病気の不安がもし無かったら何をしたいですか?“時間”を味方につけ、生の欲求を発見し生かすことができるようになれば、きっと生き生きとした生活が実現できるでしょう。そう願っています。
(鈴木優一)

「死を恐れるのは生きたいためである」 '18.2 

Hさんは、もともと心配性であったのが、お子さんを出産されてから病気が非常に怖くなり、実際毎日身体のどこかしらに痛みや違和感があるとのことでした。それゆえ、症状をインターネットで一日中調べ、悪い病気と繋げては落ち込んでしまう毎日に悩んでいると書き込まれています。

出産後にこうした悩みが強くなっているのは、お子さんのためにも自分がここで病気になったら大変・・・という気持ちがあるからではないでしょうか。つまり、母親としてしっかりしなくては、健康でいなければ・・・という気持ちが強くなった分、「万が一・・・」と心配がつのっているのかもしれませんね。心配になると、どうしても意識は体調の変化に注意が向いてしまいます。おそらくHさんの場合も、朝起きた瞬間から体調をチェックし始めて、逆に体調の些細な変化に敏感になってしまい、ますます違和感を強めてしまっているのではないでしょうか。森田はこうした注意と感覚がお互いに強め合ってしまうことを精神交互作用と呼んでいます。まさに不安ゆえに一層体調不良を探し出し、かつそれを強めてしまうというわけですね。

ではどうしたらいいでしょうか。森田は「死は恐ろしい。恐れまいとしても無理である」「少年時代から四十歳頃までは、死を恐れないように思う工夫をずいぶんとやってきたけれども、『死は恐れざるを得ず』ということを明らかに知って後は、そのようなむだ骨折りをやめてしまったのであります」と述べています。ではどうして私達は死ぬことが怖いのでしょうか。森田は「死を恐れるのは、生きたいためである」と答えています。生きたい、健康に過ごしたいという欲求があるからこそ、死はとてつもなく恐ろしいものになってしまうのです。とはいえ、私達の命には限りがあるものです。だからこそ、1回きりの人生をどのように生きるのかが重要になってくるということでしょう。

Hさんの場合も、母親になり、大事なお子さんを授かったからこそ、これまで以上に健康でありたい、病気が怖いという意識が強まったのだと思います。では病気にならないためにはどうしたらいいのでしょう。残念ながらこの問いに対する『絶対、確実』な答えはありません。規則正しく、バランスの良い栄養を取って、適度に運動をして・・・という心がけが出来るくらいでしょう。折角大事なお子さんを授かったにもかかわらず、大方の時間を病気の不安とそれを払拭するためのネット検索に費やしてしまったら、お子さんと心を通わせ、触れ合う時間はなくなってしまいますよね。

お子さんを大切に思う気持ちを、「今しかない」お子さんとの時間に活かしてあげることが大事なのではないでしょうか。不安材料を探してばかりでは自分でストレスを生み出すことになってしまいます。お子さんのために出来ることを実行し、共に笑い合い、ご家族と共に子供の成長を喜ぶことこそが、Hさん自身の心身の健康に最も効果的だと思います。
(久保田幹子)

「過敏性症候群〜診断は同じでも病状によって対応は異なります〜」 '18.1 

今回はお二人の方が過敏性腸症候群での悩みを挙げられていたので、それについて取り上げます。同じ診断でも病状によって対応は異なります。

まずはMさんですが、かなり大変な状況ですね。体調不良に加え、子育て・お父さまの看病などに追われていらっしゃいます。過敏性腸症候群だけでなく、体の痛みも出ており、さらに気持ちも落ち込んでいるということですね。過敏性腸症候群は自律神経の失調症状ですが、このような症状が長引くとうつ状態に至ることがあります。Mさんの場合、うつ状態かどうかはわかりませんが、まずは負担を軽減したほうが良いでしょう。ご主人といると落ち着くという事ですので、ご主人と共にお子さんの子育て、お父様の看病について負担が軽減できないか考えてみてはどうでしょうか。家族の中で負担軽減が難しい場合は役所での福祉サービスなどが利用できるかもしれませんので、お二人で相談に行かれるのもよいかと思います。主治医にも眠れないことや気持ちの落ち込みについて伝えてみましょう。

落ち込みが多少改善してきましたら、森田療法を生活に活かしていけます。お腹の不調、身体の痛みがありながらもやりたいことがあるだろうか、など自分の中の「〜したい」を大切に感じてください。Mさんはとても真面目な方なので今はおそらく人のために生きていらっしゃいますが、自分のための時間も大切にしてください。自分を大切にすることが、家族にとっての喜びにもつながります。やりたいことを実現できていくと、「不快なものを取り除きたい」生活から「楽しいことを行う」生活に変わっていくでしょう。

もう一人はSさん、高校生ですね。「おならが気になる」、これは思春期の方で悩まれている方が多い症状で同じく過敏性腸症候群の一つの型です。 一般的に静かな状況になると「おならをしてはならない」という気持ちになる →おならをしないため精一杯努力するようになる →それにより注意が集中して益々おならが出ないか気になる →緊張するとお腹の動きが活発になり、おならが出やすい状況になる(自然な現象です) 上のような状況はまさに森田療法の「注意の集中と身体症状の悪循環」ですね。まずおならが出るとどうなってしまうのが心配かを自分に問いかけます。おそらく「周囲の人に迷惑をかけないか」「自分が嫌われるのではないか」という心配・恐怖が背景にあるかと思います。しかしその恐怖の裏には必ず「生の欲望」があります。「人と仲良くしたい」「人に好かれたい」などの気持ちがあるからこそ、症状を気にするのです。「人と仲良くしたい」気持ちは失くせないため、症状が気にしないのは難しいでしょう。気になりながらも、目の前の行動を避けないことがポイントです。おならは自然な生体反応なので、コントロールすることはできません。おならを鳴らしながら自分のやりたいことを避けずにやっていってください。
(大久保菜奈子)

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