スマートフォン専用サイトはこちらをタップ

神経症を治す〜うつ病など症状別の森田療法Q&A

(第145回心の健康セミナー「森田療法入門講座」の質疑・応答より)

Q1:うつの回復後期の養生「朝雨に傘いらず」とは?

A:

回復がだんだん進んでくると、そういう職場に戻らないといけなということが、念頭に浮かんでくると思います。その時に果たして無事に仕事に戻れるだろうか。また具合が悪くならないだろうかという不安が起ってきます。こういった不安は、うつ症の初期の不安症消閑、病気の症状とは少し質が違います。むしろ回復が進んできた時に、無事に仕事に戻れるだろうかという不安というのは、裏を返せば、戻るからにはしっかり仕事を継続したい、健康な自分でありたいということの裏返しです。
そういう時には、不安があるからまだ仕事に戻れないというどんどん先伸ばしする必要はないのです。多少不安があっても、少しずつ歩みを進めていっても構いません。丁度、“朝雨に傘いらず“というのは朝に雨が降っていても大概夜までには、雨が止んでいるというふうなことと同じように一時的に不安があっても気がつけば、また天気は変わっていて、不安は流れていくという意味合いです。

Q2:「自然服従 境遇に従順」の発見、行動とは?

A:

その人その人によって異なっていると思います。よくご自分の生活状況を見渡している時に、例えば、定年退職された方は、第二の人生をもっと充実させていきたいという願いをお持ちだと思います。自分の欲求だけでなく、例えば、親御さんが子供に対して健康に無事に育って欲しいとか、というのも延長された健康な欲求だとも考えられます。これは千差万別です。
自分が悩みや拘りがあるところに実は、その裏には強い願い、欲望があるというふうな目で見てみると、自分が本当に何を望んでいるのか、改めて分かると思います。

Q3:「うつ」と「抑うつ」の医学的な違いは?

A:

うつと抑うつとは、そんなに区別していません。抑うつ状態といいますけれど、うつ状態というのは大変広い範囲を含んでいます。一方の極には健康の人の一時的な憂鬱があります。
昨日、嫌なことがあって気分が晴れない、しかし、要因などが除かれると自分の気分も晴れた、とかいうように状況が変わることによって自然にすっと良くなります。そういう治療が必要のない、うつ的な気分というのもうつ状態の中に含まれてきます。
反対に一方の局には、うつ病とか双極性障害のように治療が必要な病態を含んでいます。うつ状態とは非常に広い言い方なのです。参考までに正常なうつと治療を必要とする病気のうつとの、いくつかの目安はありますけれども、病気の場合のうつというのは、嫌な出来事が必ずあったとは限りません。
例えば、待望の昇進を果したとか、念願のマイホームを手に入れたとか、本来喜ぶべき状況の変化などで、うつ病が始まるということもしばしばあります。
昇進うつ病、引越うつ病という名前がついています。
喜ばしい出来事であったとしても生活上大きな変化が起こるということは、やはりうつ病の引き金になることがありうるということです。
それから、正常のうつの場合には、何か楽しい出来事が起れば気分は改善します。病的なうつの場合には、本来好きだったことをやっても気分の改善はないです。ただ疲れるだけ、そういう違いもあります。その辺を目安にしてください。

Q4:ひきこもりの人への森田療法とは?

A:

ひきこもりというのは、いろんな方がいらっしゃるので、ひきこもりの方のすべての人に有効とは言えませんが、神経質的な性格のひきこもりの人には、しばしば森田療法が行動転換させるきっかけになるということがあります。
詳しくは、森田療法で読む「社会不安障害とひきこもり」(北西憲二・中村敬編集 白揚社)という本がありますので、ご参照(参考図書)ください。
特に青少年の場合のひきこもりの人で、森田神経質的な性格の人というのは理想主義的で理想に叶わない自分について悩む、自分が自分について悩むという形をとっています。
そこまで至らない、もう少し未熟な子供ぽい悩み方、学校が悪いとか親が悪いから上手く行かない、そんなふうに受け止め方をしている人達もいます。
そう言った人達が結局のところ自分が自分について悩むというふうな悩みに少し質が変わってくるとすれば、そこで森田療法に導入することができます。
自分が自分について悩むという悩みにどうしたらもっていけるのかは、ひきこもりの治癒のポイントです。先にご紹介した本でご参照ください。

参考図書(森田療法>おすすめ図書)

Q5:双極性障害は森田療法で治療できますか?

A:

双極性障害は、いわゆる躁うつ病ですが、これは心理的な要因というよりも原因はまだはっきり分かりませんが、持って生まれた要因というのが強い病気です。
神経症の場合と違って、躁うつの気分の波を予防するには薬が中心的な役割を果たします。特にうつの時期がなかなか治りにくいという時は、森田療法を併用することによって、うつ状態からの改善を助長していくということが可能だと思います。
森田療法は、双極性障害の場合には、根治療法でなくて補治療法の役割だと考えていただきたいと思います。

Q6:パニック障害は女性がなりやすいのは何故?また再発防止に気をつける事は?

A:

パニック障害に限らず、多くの不安障害は女性に多いです。
何故かと言われると明確な正解は私も分かりませんが、おそらく長い人類の歴史の中で、そういうものの不安を抱きやすい女性というのは、それなりの生存上の意味があったのだと思います。
例えば、パニック障害とか恐怖症の傾向にある人は自分たちの住み慣れた所から、あまり遠くまで冒険に出たりしません。昔みたいに自分たちの生活園が狭くて、その生活園から外に出るとどんな外敵が襲ってくるか分からないという状況の時には、あまり好奇心が強すぎて大胆な行動を取る人よりも、割と慎重に安全園より遠くに行かない女性の方が生き残ったのではないか、そんなことも推測できます。
それなりの生存上の意味合いがあったのだろうと思いますが、明確な答えは私にも分かりません。

Q7:乗物恐怖、閉所恐怖の克服や改善方法とは?

A:

恐怖症の治療の中で、いろいろな治療のアプローチがあります。
森田療法もあれば、認知行動療法もあります。けれども共通している必要な要素というのは、恐れている状況に踏み込むということです。
森田療法では“恐怖突入”といいます。行動療法では“エクスポージャーといいます。認知行動療法の場合には、その不安な状況、恐れている状況に踏み込むだけを目的にしていません。
例えば、この高速道路とトンネルが苦手だと言う方ですから、行動療法的にアプローチするのならば、今日は一番短い高速道路に乗って次の出口で降りります。しかも最初は、家族の運転に同乗する。そのうちに自分が運転して家族を隣に乗せてやるとか段階的に高速道路をなるべく長く乗る練習すると良いです。
森田療法的にアプローチするとすれば、高速道路に乗るのが目的ではなくて、その先に目的があるはずです。それが暫らく顔を見ていない年老いた親御さんや親戚の所に顔を見せに行こうとか、その人の本来の目的に従って行動するということが基本です。
極端な話し高速に乗らなくても行ければ、それでいいのですが、高速やトンネルを通過しないとか、飛行機だともっと怖いかもしれません。どのルートを通るにしても怖いものは怖いけれど、やりたいと思っていて、行動を広げて行くのが森田療法です。やりたいと思っている行動の実現のために仕方ないから高速にも乗ればいいというのが、森田的なアプローチです。
また違う説明をしますと、乗り物恐怖の人に行動的にアプローチすると、今日は駅まで行って帰ってくる。明日はホームまで行って帰ってくる。明後日は家族と一緒に各駅停車に乗って隣の駅まで行って帰ってくる、というやり方をします。
森田療法であれば毎日電車に乗る、乗り物に乗ることを目的にした練習をしなくてもいいのです。時にはそういうことも必要ですが、今日一日は家に居ようと思っても構わない訳です。だけどもその時々の性を尽くす、自分の時間をなるべく活用することが大事です。
ぜひ、高速やトンネルのことが苦手であるという人は、そこだけを目的にしないで、もっと幅広く自分のありたいという欲求を膨らませて行って行動を積み重ねて行くことだと思います。急がば廻れという言葉があります。

Q8:対人緊張を改善する方法とは?

A:

対人緊張、顔のひきつりが起こるということと、仕事が上手く行かないということは、イコールではないはずです。ところが質問をされた方にとっては顔がひきつる、人前で緊張するから仕事が上手く行かないのだ、あるいは裏を返すと緊張さえしなくなったら仕事は上手く行くと、まず緊張を除こうということに努力を傾けて来られたのだろうと思います。
どうすれば仕事を上手くやって行くことが出来るかというふうに視点を変えて、緊張しながら仕事に対する取り組みや工夫をもう一回見直すということが基本だと思います。緊張しているかしていないか、傍から見れば二の次三の次の問題で、仕事でもそうです。緊張しながら非常にいい仕事をされる方がたくさんいるので、自分の仕事に対する取り組み方を見直すことをお勧めしたいと思います。

Q9:死の恐怖がない人の強迫性障害とうつ病の改善方法は?

A:

もしかするとうつ病が併存しているために一時的にその死にたいというふうな惑う気持ちが起こっているのかもしれませんが、この際森田療法を少し勉強してみたらいかがでしょうか。といいいますのは、死の欲望というのは、そもそも本来人間の自然なあり方からいったらないと思います。
生の欲望はあります。あらゆる生物は生きようとする本能とか欲望を持っています。死の欲望のように感じられるのは、その一つの考えを通過していると思うのです。
しばしば死にたいというふうな人の話しを聞いているとすごく視野が狭まって二者択一的にとらわれているということがあります。どうしても会社で上手くいかないだったら死んだ方がましだ、別れた夫が戻って来ないのだったら生きている価値がないなど、非常に極端に二者択一的な考えに陥っています。 その為にあたかも自分が死にたい欲望があるように感じてしまう。だけどもしばしばそういう二者択一的な思考パターンは、うつ病の時にも起こります。
よくよく見渡して見たら、もっといろんな選択肢いろんな可能性があるはずです。
今の会社でなくても別の仕事があるかもしれない、新しい出会いがあるかもしれない、人生にはまた違った喜びが見いだせるかもしれません。そういう可能性を全部排除して二者択一的になってしまった時に死にたいという欲望にとらわれます。
もっと広くもう一度自分の生の欲望、あるいはこれからの様々な可能性に目を向けることが出来ればその二者択一の思考から脱することが出来るはずです。
死の欲望なんてないのですから、ぜひ、一時的にうつの症状がでたとして、そういう死にたいという気持ちが起こって来るのだとしたら、ちょっと待ってください。うつは回復するということです。

Q10:社交恐怖の方で、劣等感が強い人への対処法は?

A:

援助者の方のご質問です。これは周りの人が協力してあげて、本人にとって協力されてしまった。これではやはり敗北感があると思うのですけれども、むしろ自分が周りの人達に協力していくという、自発的な行動が大切だと思います。自発的な行動によって協力関係が生まれた時、つまり勝ちでも負けでもない、平等の関係を体験した時がすごく転機になると思っています。

Q11:強迫性障害の縁起恐怖とは?

A:

縁起恐怖というのは縁起を担ぐという心理があります。 何か不安な将来について何とかそれを我々はコントロールしたい、という願望を多かれ少なかれ待っていると思います。
特にスポーツ選手とかギャンブラーは縁起を担ぐ心理があると思います。
神経性強迫性障害の縁起恐怖も、そういった普通の人の縁起を担ぐ心性と連続的なものであるのですけれども、例えば、4、9、13、とか縁起の悪い数字を何となく気にするというのは、そういう心理は一般に皆さんあります。それが極端になってある学校の先生で出席番号13の生徒と目を合わせることができない先生がいました。
目が合うと何か不吉な感じがします。不安、良くないことが起こりそうなそういう不安にかられると、一生懸命13番の生徒を見ないように授業しています。たまたま何かの拍子に目が合うと、もう不安で不安でたまらなくなります。
その先生はどうするかといいますと、出席番号7番8番縁起の良い生徒の方を一生懸命見て、7番8番の生徒と目を合わせて、さっきのことをなかったことにします。
そういう魔術的なはからいごとによって、何とか不安に対処しています。だから授業に当然身が入らない。そんな先生もいました。これも縁起恐怖の一つです。

Q12:社交恐怖は、なぜ強迫性障害に分類されるのか?

A:

社交恐怖の人は、強迫性障害の人と似て、完璧主義的な傾向な人が多いということもあります。森田正馬先生は強迫観念症と普通神経質と発作性神経症に分類しましたが、Aの人は必ずA、Bじゃないという言い方ではなく、だいぶ移行的なのだと、そんなふうなことを言っています。
例えば、強迫症状のある人は、多少対人関係のぎこちなさを自覚している人も多いと思いますが、絶対的なこの分類ではないというふうに思います。

Q13:対人恐怖やパニック障害でも森田療法が適合しない人もいるのか?

A:

神経質性格傾向がはっきりしている人ほど森田療法にのりやすいといえます。パニック発作はあるけれども、同時に色々アルコール依存もあったりとアルコール依存の治療もしないとなかなか森田療法は深まらないという場合もあったりするので、多少、同じ病態であっても森田療法にのる人とのりにくい人がいるのは確かです。
不安神経症で体調の変化に敏感な人とか、夏場冷風や冷房が苦手、自律神経の過敏な人、こんな方から質問があります。自律神経の敏感さは個人差があって、持って生まれた要素も大きいです。特に更年期以後の女性の場合、ホルモンバランスが加わって自律神経の反応が敏感に起こりやすいというのはままあります。それ自体を完璧にコントロールしようと思わない方がいいし、むしろ、私はデリケートな性質なのだというふうに思っておかれた方がいいと思います。
逆に冷房が苦手な人は、羽織るものを持っていくのは必要な行動なのですけれど、それが恐怖症みたいになってしまっています。寒冷恐怖と言ってクーラーがあるところを避ける。あるいは、冷えることを恐れるあまりもの凄い厚着になるというそうなると神経症的になっていきます。むしろ完璧に体調をコントロールしようとするよりも、気温も本来自然に変動するものだし、体調も自然に変動するものだから、ある程度自然に揺らぎながら生活して行くということを心がけることです。
過度なコントロールは、とらわれになります。

Q14:薬に頼らない治療法とは?

A:

薬というのは有効な手段というのは申し上げましたけれど、神経症の場合は、補助手段です。ですから薬が飲みにくい人、副作用に敏感な人は無理に薬を飲まなくても、心理的治療一本でも差支えないと思います。 神経症の場合では、薬を飲まなければならないものではない、ということです。 妊娠されている方は、なるべく薬を使いたくないのは当然だと思います。

Q15:関西で森田療法医療機関は?

A:

昨年の12月に院長先生が高齢のために京都の三聖病院は閉院いたしました。今、入院治療実施している所は、東京慈恵医大、三島森田病院、浜松医科大学、その3施設が主なところです。
一般の精神科病棟の中で、森田療法的にアプローチしているところは東北大学、慶応大学です。クリニックは財団の資料(森田療法医療機関)に載っています。

森田療法医療機関

Q16:森田療法と認知行動療法の違いは?

A:

これは、詳しく話しているとすごく時間が掛かりますが、認知療法を創始したロンデックというアメリカの精神学者に1992年に会ったことがあります。その時に森田療法の文献を読んでいて特に日記療法なんかを参考にして、既読を取り入れました。デック先生は、認知行動療法、森田療法も過去よりも現在のことを問題にします、とおっしゃっています。行動を通して否定的な偏った考えの修正をはかり、悪循環から脱却させるということを重視しています。その点では共通しています。
認知行動療法は欧米で生まれた治療法なので、不安や症状をコントロールする姿勢が基本にあります。ところが森田療法の場合には、不安というのは本来自然な心の体験と言っています。ですからそれをコントロールしようとすることに拘りが生じるので、コントロールせずにあるがままに不安を受け入れていくことが根底にあります。その違いがあります。自然に対する東洋と欧米のユダヤキリスト文化の違いが源にあるかもしれません。
ただし認知行動療法でも最初の第三世代と言われている認知行動療法の中では、逆にコントロールしようとすること自体が問題であると言われています。そんな森田療法に接近してきたような流派も出てきています。認知行動療法と言っても、ずいぶん時代と共に変わってきています。
最近マインド認知療法と言って、仏教的な考え方を取り入れた治療法も出てきたりしています。もう一つ認知行動療法の認知といった場合、考え方を変えていくとゆうふうな発想が強いのですが、森田療法では、教え方から別に無理に変えなくてよい、むしろ考え方はその辺に置いて新しい行動に取り組んでみようとします。 新しい行動に踏み出した時も、直感的な気づきみたいなことの方が大事だと言われています。
不安はいっぱいあったけれど、思いきり草むしりしていて汗をかいて風が吹いてきて心地よかった、何か気持ちいいぞ、不安はどこに行ったのかな、これは頭で理解したことではなく、自分の体験を通して改めて不安というのはいつの間にか流れていくのだなということに気づきます。そういう直感的なものを森田療法では重視します。

SEMINAR

Copyright (C) 2009 The Mental Health Okamoto Memorial Foundation