(強迫神経症(雑音恐怖・トラウマ))
佐藤 志穂(仮名)50代・主婦(体験フォーラム会員)
私が、壁打ちをしたりボールを蹴ったりする音に、動悸を感じるようになったのは、母が亡くなってしばらく経ってからのことでした。近所の子供なので、注意してはいけないと思い、我慢していると、早朝から、家の前でサッカーをやるようになりました。車のドアの開け閉めの音にも動悸がするようになりました。その頃、近所で解体工事があり、重機の重低音が毎日響くようになりました。
ボールの音は職場でよく聞こえていた時は、何ともありませんでした。夫が手術し、誤診で転院して、再手術。合わせて1月近く遠方の病院に入院し、同時期に同居の母が闘病5ヶ月で亡くなってしまったことが強いストレスだったと思います。子供はまだ2歳でした。
母の死で、就寝時に暗闇の中に沈み込んでいくような寂しさを覚えたのですが、ボールの音でこんなに動悸がしてしまうのはどこかおかしくなったに違いないと、近くの心療内科を検索している途中で、偶然、メンタルヘルス岡本記念財団を知りました。
神経質という言葉に、思い当たりました。子供の時、親が私をしかる時にお前は神経質だなあ、と言っていたので。
外ではいつも明るく前向きで、よく気が効くリーダーシップのある子と言われ、実際は自己評価が低く、些細な事で傷つく子でした。ホームページを読んで、もしかしたらこの恐怖は病気ではないのかもしれない、神経症なのかも?と思い、体験フォーラムに参加申し込みをしました。電話相談でそのボールの音の恐怖は強迫神経症という名前だということを知りました。キョウハクを脅迫電話の脅迫と思うぐらいの知識の無さでした。
社会人になってから、大学で認定心理士課程の大半を履修していたので、色々な心理療法の基礎を学んだはずが、森田療法についてはざっくりとしか記憶がありませんでした。でも今まで自分の知識を駆使しても改善されなかったからこそ、病院を検索していたわけですから、電話相談とホームページを読んで、私にはもはや森田療法しかないと確信しました。
電話相談にはひどい時は毎日、お世話になりました。電話できたのは、受付の方のいつも変わらないかわいい声と、相談の先生方のお陰です。森田について、物分かりの悪い私に根気よく指導してくだいました。
不安がある時には掃除をして、紹介された森田先生の本を読み、体験フォーラムの強迫の部屋を過去まで遡って毎日読みました。強迫の部屋の先輩たちがどんどん良くなっていく様子に励まされました。掃除は床を雑巾で水拭きが一番よくやりました。普通の掃除は普通にやっているので、不安な時にはプラスして水拭き。泣きながら拭いた時もありますが、拭く時に感情は関係ない。やるべき事をやるだけです。当時我が家の床は古い板張りでしたがいつも清潔でした。
どうにも耐え難い工事の重低音は、逃げてもいいと、電話相談で教えてもらいました。そして、後輩にアドバイスするよう言われました。私のような者が、まだまだかえって後輩に申し訳ない、と思いながらも、素直に他の人にコメントして行きました。
この素直さ。本当は神経質で頑固な私ですが、就職した時の上司に、
「理屈は後から。仕事には期限がある。とにかく仕事を新人でもこなさなければ迷惑をかける。だからやり方を先輩に習ったら、疑問があってもやってみる。仕事に慣れてそれでも疑問だったらとことん調べなさい。」
と言われて、その通りやって来ました。仕事が出来るという評価に繋がった過去があるので、神経質者にとっては素直にすることは難しいのですが、自分の意見はいったん横に置いて、森田を素直に実行できるのが仕事で培った、私の良いところでしょう。
コメントには森田の知識が要りますから、本を読み直し、初めは恐る恐る、何度も書き直しました。送信してからも、相手を傷つけてしまったのではないかと心配になりましたが、管理人さんがいて、不適切発言は掲載されない事が、安心材料でした。初期には、人との距離の取り方が苦手なので、管理人さんに掲載されない理由のメールをいただいて、反省した事もあります。それでもめげずに発言し続けたのは、自分の森田の復習になる上、相手のことを思って発言する事で良くなっていく人がいる事は、私にとっても喜びだったからです。
森田療法を実践してすぐ、音で動悸がする事はなくなりました。病院には行っていません。森田だけです。あっという間に症状がなくなったのは岡本先生が本で書かれている通りでした。実践中、突然、金属アレルギーになったり、腰の病気が出たり、夫の病や子供の受験、父や義父の介護や死など、ストレスは色々ありましたが、不調の時にこそ森田療法を活用して色々なことを乗り越えてきました。
森田療法を実践しているうちにトラウマがあることが分かりました。財団の電話相談で杉山先生(福井大学子どものこころの発達研究センター客員教授)のセミナービデオを教えていただき、複雑性トラウマに該当することが分かりました。杉山先生の本を読み、パルサー(左右交互に端子が振動するトラウマ治療器具)を買い、毎週日曜日の昼間に簡易治療をすることにしました。最初の週が一番辛く、夫に「あなたは悪くない」と言ってもらい、電話相談にもお世話になりました。パルサー治療プラス森田療法でトラウマの治療が出来たということです。
幼少期の家で恐怖を覚えた夢を見て、トラウマが過去の記憶の中に統合されたことが分かりました。
それら全てを私は医者に行かず家庭で、杉山先生の本と森田療法を頼りに実践することができました。森田療法を知らなければ自分がトラウマを持っていたことにも気がつかず離人感がある状態のままでした。
私は一生神経質です。これからも人生の中で色々な困難に突き当たると思います。
ボールをコンクリートで打つ音や重機の低音は今でも嫌いです。
でも、人生の困難は森田療法を用いれば、必ず乗り越えていけると思っています。
今、ここを大事にする、森田療法は、私の人生の羅針盤です。
メンタルヘルス岡本財団の電話相談の受付の方や先生方、体験フォーラムの管理人さんや答えてくれたメンバーの方たちに感謝しています。返しきれない程の恵みを頂きました。
普通の神経質者に戻りましたが、体験フォーラムから脱退していません。
まだ悩んでいる後輩たちに、森田療法を伝えることによって、後輩も良くなっていき、私も森田の復習ができ、お互いに得るところがあると思っています。
今後もよろしくお願いします。
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