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内山彰先生への質問と回答

  1. 患者の性別、年齢、学歴などによって治療法が異なるのでしょうか?それともどの患者にも同じ治療法が当てはまるのでしょうか?

    一般に、森田療法の適応は疾患の種類と森田療法の適合する神経質傾向すなわち『(森田)神経質』の度合いによって決定するものです。従って原則としては、患者の性別、年齢、学歴によって治療法が異なることはありません。ただし、入院治療の実際においては、特に作業療法の内容において性別や年齢によって多少の差が生じることはあります。例えば、高齢者に対して炎天下での畑仕事をひかえてもらったり、女性に対しては炊事作業を優先してもらったりすることはあります。しかしこのことは森田療法の基本理念において差別等による差があることを意味するわけではありません。

  2. 森田療法を日本人以外に適用する場合、方法と結果は異なるでしょうか?

    1.で述べたように森田療法の適否は神経質傾向の度合いによって決まるものであり、神経質であるならば日本人かどうかは問わないと思います。ただし、文化、民族性によって神経質者数の割合は多少異なるかもしれません。例えば、日本文化は恥の文化であると言われる一方、欧米では個人主義が確立し弁論が盛んであるため、結果として対人恐怖症は日本に多いと考えられます。

  3. 森田療法と他の精神療法が区別される最大の点は何でしょうか?

    森田療法では、神経症患者は本来健康人と異なるものではなく、従って神経症症状は病的状態というより単なる適応不全にすぎないと考える点がユニークと思います。また、この点が技法上類似点が多いとされる行動療法との最も大きな差異であると思います。

  4. 治療法計画に従わず、作業を拒否したり、作業の質が低い患者には、どう対応しますか?

    当初から治療内容を説明し、納得してもらいます。その上で治療意欲が高いと判断された者にのみ森田療法を施行します。従って頭から作業を拒否する者は最初から森田療法に参加しません。また、作業を行うことにはやぶさかではないが、作業の方法や内容に不満を示す者に対しては、「森田療法における作業療法では作業技術の修得が目的なのではなく作業をしていく生活態度を身につけることが重要であるから、作業内容はどうあれ与えられた作業をこなすことが必要である」と説明します。意欲あるものの作業能力の低い者に対しては初歩から指導したり簡単な作業を分担してもらいます。

  5. 自殺念慮をもつ患者にも森田療法は有効ですか?もしそうなら、そうした患者にどう対応していますか?絶対臥褥はかなりの欝状態にある患者には逆効果とならないでしょうか?

    自殺念虜をもつ患者に対しては森田療法を施行しません。途中で自殺念虜が明らかになった場合は森田療法を中止します。そうした場合、自殺念虜の原因となる疾患に対して治療します。例えば、うつ病ならば安静にして薬物療法を施行します。ただし、自殺念虜の消失した回復期のうつ病に対しては森田療法は有効です。というわけで、かなりのうつ状態にある患者に対して絶対臥褥を行うということは通常ありませんが、もしそうだとしても安静・休息を与えるという意味で有害ではないと思います。もちろんその場合、煩悶退屈を生じさせるという絶対臥褥本来の目的とは無関係となりますが。

  6. 先生の病院では、森田療法と薬物療法の併用も行われているのでしょうか?そうだとすれば、どんな条件の場合でしょうか?森田療法単独では治療が難しい精神疾患には、どのようなものがありますか?

    森田療法では薬物を使用しないのが基本です。しかし、森田神経質の度合いが低くヒステリー傾向が強い場合や、薬物療法が有効であると判明し本人も希望する場合、薬物療法を併用することがあります。当院では向精神薬をまったく投与しない者と何らかの形で投与する者の比率は約1対1です。森田療法と薬物療法を併用する場合、薬物療法を単独で施行する場合に比較して薬物の量を減らす効果を期待できます。神経症では森田療法単独で血量が難しいということはありませんが、薬物療法を加味した方がより効果的であるという傾向は、特に不安神経症(パニック障害)や強迫神経症に認められると思います。また最近では、うつ病やアルコール依存症等の神経症以外の精神疾患に森田療法を適用することがありますが、その場合森田療法を単独で行うのではなく、各疾患の本来の治療法を行った上で森田療法を加味することが多いようです。

  7. ロールシャッハテストの使用について言及されましたが、何の目的で使用されるのかは言われませんでした。ご説明いただけませんか?また、このほかにどんな評価法をお使いでしょうか?

    森田療法を施行する上で必ずしもロールシャッハテスト等心理検査が不可欠というわけではありません。しかしロールシャッハテストは特に精神分裂病を鑑別する上で重要と考えています。当院では患者の精神状態を客観的、多角的に把握する手段の一環として、絶対臥褥前後に全員に心理検査を施行しています。ロールシャッハテスト以外では、矢田部・ギルフォード性格検査、SCT、MMPI、WAIS-R、CMI、PFスタディ、描画テスト等の心理検査が行われています。

  8. 絶対臥褥の最中に患者が不安に完全に圧倒されてしまうことがないように、どのような事前措置をとられますか?不安に耐えることが出来そうにない患者を前もって見極める方法はあるでしょうか?

    『不安常住』をあらかじめ絶対臥褥前に説明しておきます。また最初から脱落が予想される例に対しては抗不安薬を投与することもあります。不安耐性の低さは、生活暦上の脱落経験の有無や絶対臥褥前に施行したロールシャッハテストの結果などを参考に判断しています。

  9. 先生の病院で治療を受けた患者の再発率はどのくらいですか?

    一般に、森田療法は一旦修得すれば、二度と症状再発はしないと言われます。しかし、現実には再入院する例もままみられます。当院の症例では、森田療法の修得が中途半端であったとか、時間経過とともに森田療法の体験の記憶が薄れていったとか、森田療法の理解は十分でもその他の要因によって現実社会に適応できなかったなどの要因が挙げられました。再発率の正確な数字は、十分な追跡調査が行われていないため残念ながら不明です。

  10. 患者が治療の過程に従おうとしない時、医療スタッフはどのような対応をとりますか?

    事前に治療法の内容を十分説明して納得した者のみ森田療法を施行する点、森田神経質者は内省力が高く従順であるという点から、治療過程に反抗的という患者は小数です。しかしそういうことが起きた場合、再び治療法を説明して同意を得るよう努力しますが、それでも従わない場合はやむおえず森田療法を中止します。それは森田療法を施行する上で最も必要なのは本人の治療意欲であると考えるからです。

  11. 閉所恐怖症とか、臥褥期間中に不安が頂点に達してしまうような患者を今までに経験されましたか?そうした場合はどう対応しますか?

    ときどき経験します。まず薬物療法を施行してみますが、無効の場合は絶対臥辱を中止します。その場合もできるだけ作業療法に移行して森田療法の継続に努めます。もし絶対臥辱を脱落してもその後作業療法に参加できれば、絶対臥辱を脱落しなかった例と比較して治癒率に有意さはないという報告もあります。

  12. 厳しい規則に縛られた生活様式は協調的な日本人とちがい、アメリカ人は嫌います。森田療法ではこの点をどうお考えでしょうか?

    森田療法に必ずしも厳しい規則は必要ないと思っています。入院森田療法では患者は共同生活を行うわけですので最低限の規則は必要ですが、他の入院治療に比較して特に厳しさが要求されるわけではないと思います。しかし、神経質者は内省的で対他配慮が強いため、神経質者が集団になると、おのずから規律的になると思われます。特に当院では患者個人の自主性が重んじられていますが、結果としては規律は保たれています。

  13. 今回の講演会は、日米交流のすばらしい出発点となりました。今回の講演者と主催者の方々が相互交流と協力関係の次の階段へ進まれることを念願しています。次の階段の計画をお考えでしたらお聞かせ下さい。

    個人的には、今回の講演を契機に森田療法に興味をもった専門家の方々にぜひ日本で治療現場を視察したり体験入院をしたりして理解を深めて頂きたいと願っております。その上で有意義とお考えならば本国で森田療法を実践されてみたらいかがかと願っております。

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