薬物療法への接し方(症例と解説)

日記療法
伝統的な森田療法では、臥褥期が終わり、軽作業期から日記療法を始めます。そこでは、主としてその日の行動の記載が求められます。入院者はその日の夕方に日記を記載し、次の日の朝に治療者に提出します。治療者は毎日それについて森田療法の立場からコメントを加えます。
わたくしの日記療法は、伝統的な森田療法のそれとは異なります。わたくしは治療を始めるに当たり、患者に「どんなことであっても、それが症状であっても、不満であっても、怒りであっても、感じたままに書くこと」を勧めます。それはその人がさまざまな感情を中心に、行ったこと、考えたことなどの体験を一日の終わりに振り返り、それを見つめて、主体的に書くことを重視するからです。
日記の治療的意味と効果として
- 悩んでいる人にとって、その日の夕方に日記をつけるということは、その日の出来事を振り返り、みずから内省する契機となります。
- その人自身が主体的に自分の不安、感情を自分なりに受け止めて行こうとする態度を助長します。
- 治療者との日記を通したやりとりは、精神科面接、カウンセリングに匹敵するもので、自己理解を深め、不安などの感情を受け止め、それを消化し、自分のあり方を修正する原動力となります。
- 記録として残るので患者は治療者の日記のコメントを何回となく繰り返して読むことが可能となり、そこから十分時間をかけて自己修正ができます。
これらの説明にAさんは「なるほど、そうなのか」と納得し、また今までと違ってはっきりとした治療の道筋が示されて、自分の不安の克服に取り組む勇気がでてきたようでした。
わたくしはAさんの治療を日記を用いて、外来で始めることにしました。
その日の自分の行ったこと、感じたこと、考えたことを日記に書くことと外来に週に1回1人で通ってくること、不安に襲われたら不安をよく知るチャンスと思い、しっかりとそれと付き合ってみることとその不安を観察してみること、をわたくしは提案しました。
つまり今までのように受け身で服薬をしているだけでなく積極的な精神療法を行うことをAさんに提案したのです。Aさんは外来森田療法を受けることを同意しました。面接は最初だけ週に1回で、すぐに2週間に1度のペースでやっていけるようになりました。
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