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「柔らかいものは折れない」 '25.02
Tさんは不眠症と自律神経失調症と体の病気もあって、休職されてフォーラムに参加されました。参加された当初は復職への焦りもあり、睡眠薬を使ったり、なんとか眠れるようにと工夫されているにもかかわらず、寝れなかった日はイライラしたり、倦怠感が辛く、落ち着かないといった状態が続いていたようです。その後、フォーラムの中で、「かくあるべし」ではなく、あるがままに受け入れる心の柔軟性が必要であると気付かれ、休職2ヵ月程で復職されたとのことです。その後、いかがお過ごしでしょうか。
そこで、今回は心の柔軟性について、お話しさせていただきます。突然ですが、皆様の「強い」というイメージはどんなものでしょうか。一般には「力や技が優れていること」や、「心身が丈夫であること」などを指すと思います。気持ちの強さという面では「物事に屈しない精神力」という意味もあるかと思います。「丈夫」とか「物事に屈しない」というと、「固くて壊れない」というようなものをイメージされるかもしれません。確かに、固くて壊れない物もあるかと思いますが、それを上回る力が加わると、パキッと折れたり、ひび割れたりしてしまいますね。一方で、柔らかく、しなやかな物はどうでしょうか。しなやかな物は外からの力によって、曲がりますが、なかなか折れません。枯れた木の固さと、若い木の柔らかさをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
これを心(気持ち)に当てはめてみると、固い強さは頑固、しなやかな強さは心の柔軟さ、という感じでしょうか。私たちは生活している中で、時には「譲れない」と頑固になることも必要かもしれません。ただ一方で、頑固が過ぎて意固地になると、窮屈になってしまいますし、強い力(ストレス)がかかったときに、心がパキッと折れてしまうかもしれません。そんな時には、心を柔らかく、しなやかにすれば、折れずにすむと思います。このように、頑固になって、苦しくなったときに、より心を固くするのではなく、心の柔軟性を取り戻すと、楽になるのではないでしょうか。Tさんも含め、皆様、身体も心もストレッチして、「しなやかな強さ」を身につけていってくださいね。
(谷井一夫)
「神経質性格について」 '25.01
Kさんは20代にうつ症状を経験し、うつ病の治療を受けていらした中で、「これだけ動けているのはうつ病ではない。神経過敏で不安がものすごく大きい特性がある」と医師に言われ、森田神経質の性格に自分がばっちり当てはまっていることをこのサイトで知り、経験談を読んだり、相談されたいと思われたとのことです。
お父様は仕事に明け暮れ、お母さまは感情的で叱り方も激しい方だったが、その後うつ病を患われて人が大きく変わってしまったことも記されていました。子どもは自分の気持ちを受け入れてもらうことで、自分もその気持ちを受け止めていくことができるようになっていきます。それだけ細やかに感じる子どもがそういった環境におかれて、十分なサポートや自分の心情を十分に理解してもらう機会がない中で過ごさなくてはいけなかったのだとすると、どんなに大変なことだったでしょう。強い感情に圧倒されたままになったり、自分に批判的になって、自分の感じ方や性格の肯定的な面に気づき、それを統合していくことがこれまでなかったかもしれません。
神経質性格は一言で言うと、生の欲望が旺盛(向上心が強く、そして傷つきたくないという自己保存の気持ちも強い)な一方で、とても自己内省が強い特徴があります(自分の足りないところに目が行き、反省をしがちで融通が利かない)。こういった自分の性格の特徴を受け入れられると長所となるけれども、隠そうとしたり、とにかく傷つかないように体面を保とうとしたりすると、短所となって、症状に発展したり、苦しみを味わうことになります。
Kさんが治療の中で、これまでの自分の人生を振り返り、忘れられない記憶や心に残っていることの一つ一つを振り返って、自分が望んでいたことと思うようでなかったこと、自分の悔しさや喜び、自分なりに工夫してやって来ていたところを治療者と細かく味わっていかれる中で、自分の良さや自分の生かし方について、自覚されることが増えるのではないかと思います。森田先生は患者に気質としての神経質のすばらしさを伝え、己の在り方を深く自覚することが根本的な治癒につながると強調されていました(岩木、日本森田療法学会雑誌2022)。
ぜひこのことがKさんにも繋がるように願っています。
(矢野勝治)