普通神経症の部屋
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」 '26.03
Cさんこんにちは。東京慈恵会医科大学西部医療センター精神神経科の半田です。
もともと心配性な性格で、抜歯後の経過が思わしくなかったことから不安になり、その後も頭痛・胃のあたりの痛み・動悸・のどのつまり感などが続いているのですね。そして不安を避けずに向き合うとはどういうことかというご質問でした。
医療機関で治療を受ける際には必ず副作用の説明をされますが、聞けば聞くほど怖くなりますね。治療後に何か違和感があると「これはもしかしてあの副作用じゃないか?」と嫌な方向に想像がふくらんで疑心暗鬼になり、楽しみにしていた外出の予定をキャンセルして、家で安静にしたり病院を受診したりします。ですが、そうすることでかえって注意が集中して違和感をより敏感にキャッチするようになりますし、さらに緊張状態が続くと実際に頸や顎の筋肉が緊張して頭痛がひどくなったり、胃が痛くなったりしてしまうのです。これが、森田療法で精神交互作用と呼んでいる悪循環です。
誰でも痛いこと・苦しいことは嫌ですから、病気の不安を避けたくなるのは当然のことです。ただそれが問題なのは、不安を避けることによって、楽しみ(欲望)もまた避けることになってしまうからなのです。症状のために、できないことはないけれど控えていることはないですか? それ、ちょっとずつやっていきましょう。先ほどの裏を返せば、不安と向き合うということは欲望とも向き合うということです。虎穴に入らずんば虎子を得ず、ということですね。
(半田航平)
「体調不良への不安が強い時には」 '26.02
Oさんは、昨年夏に熱中症になり、手足と口のしびれや激しい動悸を経験されたのですね。そうした強い身体の苦痛を経験されると、「また同じような苦しみを経験するのでは」と不安感が強まるのは無理もないことと思います。そのような中でコロナウイルスに感染され、不安感から呼吸困難となり救急搬送され入院されたとのこと、大変なご経験をされたのですね。その後、少しでも体調が悪いと感じると不安感に襲われ、動悸がしてどうしようもなくなってしまうようになられたとのこと、Oさんのつらい状況、お察しします。
Oさんのように、一度強い身体症状を経験すると、その後、体調の変化に注意が向きやすくなるものです。少しの違和感にも注意が向かい、不安が強まり、動悸や息苦しさが生じ、さらに不安が高まり、ますます症状が強まるということが起こります。森田療法では、このように注意と身体感覚が互いに強め合う状態のことを“精神交互作用”と呼んでいます。そのため、「死んでしまうのではないか」と思うほど強い身体の苦痛を感じることがあっても、それがそのまま命に関わる状態とは限りません。 Oさんは入院されたご経験があるとのことですから、その際に必要な身体の検査も受けられているかもしれません。もし検査で大きな異常がないことが確認されているのであれば、そのことも身体の一つの事実として受け止めていただきたいと思います。
繰り返しになりますが、現在のOさんは、不安や恐怖が強いために体の状態に意識が向きやすくなり、わずかな身体の変化も気になり、気になると動悸が起こり、ますます不安や恐怖が強まるという悪循環に陥っているように思われます。このような時、「不安をなくそう」としたり「症状が出ないようにしよう」と意識し過ぎると、かえって不安や身体の感覚に注意が向きやすくなります。
森田療法では、体調不良への不安が強いということは、それだけ背後に「健康でありたい」という願いが強くあると考えます。そのため、不安をなくすことに力を使うのではなく、不安があるまま「健康でありたい」という願いに沿った生活を進めていくことが大切です。Oさんにとって、健康な生活とはどのようなものでしょうか。好きなことや関心のあること、日常の中で取り組めそうなことがあれば、どんな小さなことでも構いませんので、手をつけてみてはいかがでしょうか。そうして目の前の生活のことに意識を向けていくうちに、少しずつ体調不良の不安に振り回されずに過ごせるようになっていくかもしれません。
(金子咲)
「活かし方次第の神経質」 '26.01
Tさんは、幼少期から神経質で、周りの雰囲気などを敏感に感じ体調を崩されるといった悩みを抱え過ごされてきたのですね。一方で、活動的に様々なことを経験しつつ、目標に向かって頑張ってきたというTさんもいるようです。波はありながらも、今は楽しく研究に取り組めているのですね。本当に素晴らしいことだと思います。こうした経験を振り返りTさん自身、森田神経質の特徴に当てはまると考えていらっしゃるようです。森田神経質とは、自己内省的で敏感、心配性でくよくよしやすいといった一見すると弱気な要素と同時に、完全主義で負けず嫌いといった強気な要素を併せ持つ性格のことをいいます。まさにTさんは、敏感なところと同時に発展向上欲を併せ持っているのでしょう。そのようなTさんは、未来が不安になる性格を鬱陶しく感じてしまうようです。
確かに、目的に向かおうとする時に、ご自身の不安になりやすい性格を鬱陶しく思うのも自然なことかもしれません。しかし、この神経質性格は、決して悪い性格ではないのです。神経質の活かしどころを理解して必要なところで神経質になれればそれは長所となる、と考えられているのが森田神経質の特徴でもあります。
例えば、飛行機の整備士は、機体に不具合がないかと非常に神経を使うでしょう。もし少しでも不具合があればそれは大きな事故に直結するわけですから、敏感にならざるを得ません。安全運航を目的に、その神経質を活かしているからこそ、私たちは安全な空の旅が出来るわけです。大事なのは、神経質をいかに活かすか。それは、Tさんの日常でも言えるのではないでしょうか。現在、研究に取り組んでいらっしゃるTさん。研究では、きっと敏感さと緻密さが求められることでしょう。とするならば、きっとその神経質は大いに役立ち、Tさんの成長に一役買ってくれるはずです。そこに完全主義や発展向上欲といった要素が合わされば鬼に金棒ですね。未来を不安に思うのは、それだけ自分の人生をよりよいものにしていきたいという欲求があるからです。その欲求に従って、ご自身の敏感な要素を排除するのではなく、活かしていくためのアイテムとして付き合えば、能力が磨かれご自身の良さが発揮されていくはずです。応援しております。
(渡辺志保)
