メンタルニュース

メンタルニュース NO.21

メンタルヘルス岡本記念財団特集

公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団は、1988年に厚生省(現厚生労働省)の認可によって設立、助成事業や一般事業を展開してきました。
これら長年にわたる地道な活動が評価され、次の表彰を受けました。

  • 1992年10月 「日本森田療法学会特別賞」(財団)
  • 2000年11月 「厚生大臣感謝状」(財団)
  • 2002年10月 「第54回保健文化賞」(当財団理事長)
  • 2002年10月 「第13回森田正馬賞」(当財団理事長)
  • 2003年10月 「第51回精神保健福祉事業功労者表彰」(財団)
    本号では、当財団の“活動事業”と“受賞内容”を紹介させていただきます。

長年の地道な活動で受賞

昨年、財団法人メンタルヘルス岡本記念財団理事長の岡本常男は、永年にわたる保健医療福祉分野の功績を認められ「保健文化賞」「森田正馬賞」をダブル受賞しました。また今秋には、(社)日本精神保健福祉連盟会長表彰の受賞が決定されました。

保健文化賞は第一生命保険相互会社が主催、厚生労働省・朝日新聞厚生文化事業団およびNHK厚生文化事業団の後援による長い伝統に育くまれた権威のある褒賞であり、皇居に於いて天皇皇后両陛下拝謁の栄に浴しました。

森田正馬賞は慈恵医大名誉教授森田正馬が創案し、今や精神医学界の共有財産となった森田療法における研究・実践活動に顕著な実績をあげた功に対して、日本日本森田療法学会より顕彰をうけたものです。
さらに、今秋10月に、神戸のポートピアホールで、第51回精神保健福祉全国大会が開催され、当財団は、精神保健福祉事業功労者として表彰されました。

富に勝る生きがい

浜松医科大学名誉教授 大原健士郎
日本経済新聞2003年(平成15年)3月9日号より転載

十数年前のことである。当時、私は日本日本森田療法学会の理事長をしていた。森田療法というのは、一九二〇年ころに森田正馬先生が創始した日本独自の精神療法(心理療法)である。会員はせいぜい百人程度で細々と学会活動を続けていた。
ある日のこと、私の恩師である高良武久名誉教授から電話がかかってきた。いつも温厚な先生がかなり興奮していた。
「君、森田療法に四十億円を寄付する人が現れたんだよ!」
私は耳を疑った。最初は四十万円かと思った。ところが四十億円である。高良先生は悪い男にたぶらかされているのではないかと思った。その人物は岡本常男という関西の財界人で、長年患っていた胃腸神経症が森田療法に出会って短期間で治ったそうである。それに感謝して私財四十億円を投げ出して関係財団を設立したいというのである。
最初は半信半疑だったが、高良先生にも説得され、私も財団の理事に就任した。間もなく、岡本さんは私を訪ねて浜松にやってきた。私はぶしつけに、どうしてそんなに大金を持っているのかと尋ねた。
彼は終戦後にシベリアに抑留された。三年ほど苦労して日本に帰り、奥さんと二人で商店の店先を借り、下着類を売った。これが当たった。同じような境遇の人が数人いた。相談しあって会社を作った。これが後のニチイである。彼は洒も飲まなければ、たばこも吸わない。出世をしても質素な生活が続いた。給料はすベて同社の株を買った。金もうけのためというより、献身的に会社に尽くしたのである。ふと気が付くと、彼は大株主になり、巨万の富を得ていた。
彼はその二年後に厚生省(当時)の認可を受けて財団を発足させた。そして毎年、二千万〜三千万円の研究助成を始め、中国や米国に森田療法を普及して回った。その間ニチイはマイカルヘと変わり、そして経営が破綻し、彼が持っていた株も暴落し、瞬時にして巨万の富を失った。被はただひと言、「しゃあない」と言ったそうである。
昨年の暮れ、岡本さんは厚生労働省の保健文化賞と学会の森田正馬賞をダブル受賞した。彼は私に言った。「財団を作っておいてよかった。それが私の生きがいですよ」

保健文化賞を受賞して 岡本理事長のコメント

第一線の企業人として活躍していた頃、私は、激しい神経症に陥りました。やがてこれを、世界的に知られた神経症のための精神療法──森田療法によって克服することができました。

いわば幸いにも、出合いの妙によって救われたのです。そこで神経症で悩む人に、優れた精神療法の存在を知ってもらいたい……。そのような願いを基点として、財団法人を設立させていただきました。以来、すでに15年目を迎えていますが、森田療法の普及にも努めてきました。

以下、私の神経症体験と、その経過を記してみます。

それは?ニチイで、副社長と営業本部長を兼任していたときのことでした。昭和60年の秋ごろから、急速に食欲が減退していきました。もともと小食で1日2食だったのが、1日1食でさえやっとの思いです。やがて食事の量もさらに少なくなりました。それまで私の体重は45kgでしたが、とうとう36kgにまで減少する始末です。

もちろん複数の病院で精密検査をしましたが、「胃腸に異常なし」との診断です。それでも、まったく食欲がないので納得できません。治療法もいろいろと試みました。しかし一向に快くならず、ずいぶん悩みました。

そんなとき、たまたま旧友から森田療法を紹介されました。この森田療法というのは、大正9年ごろ森田正馬博士(東京慈恵会医科大学名誉教授、1874〜1938年)によって創始された精神療法です。
さっそく森田療法について書かれた本を、むさぼるように読みました。その結果、私は胃腸病ではなく「神経質性格から生じた“神経症”であること」が十分に理解できたのです。

ひきつづき森田療法理論の学習と実践によって、おかげで体重がひと月に2kgずつ増え、半年後には過去最高の50kgに達し、胃腸の調子もすっかり快くなりました。そして現在も、心身ともにきわめて快適な毎日を送っています。

ちなみに、神経症に悩む人たちとその克服経験者でつくっている「生活の発見会」という、自助グループがあります。森田理論を学習している全国的な組織です。私も悩んでいるときに力づけられましたが、同会はその活動が評価されて、平成10年に保健文化賞を受賞されています。

最後になりましたが、なによりもご支援・ご鞭撻を賜わりました方々に、深く感謝いたしております。
社会の関心が高まる心の健康をめざして

財団法人メンタルヘルス岡本記念財団では、神経症の問題を中心に、心の健康づくりに寄与するための事業を推進しています。
まず、神経症にたいする精神療法の研究や啓発活動などへの助成金の交付、そして神経症についての理解を深めるためのセミナーの開催やメンタルヘルス図書室や「神経症のため」のホームページなど、広報活動もおこなっています。
そこで、当財団のめざす《事業目的の要点》を書きならべてみますと、つぎのようになります。

当財団の事業内容について

当財団では、助成事業と一般事業をおこなっています。このうち、おもな事業の概要などについて、つぎに記してみましょう。

財団法人の設立と活動

◎名 称
財団法人メンタルヘルス岡本記念財団(The Mental Health Okamoto Memorial Foundation)

◎設立目的
昭和63年7月に、厚生省(現、厚生労働省)の認可をえて設立(大阪市中央区)。当財団は、神経症に関する研究・活動への助成を中心に、心の健康づくりに寄与するための事業をおこないます。

◎役員構成
理事長・専務理事・理事・監事・評議員・選考委員がその構成メンバーとなっています。(医師18人を含む総員34人)。

◎活動状況
助成事業と一般事業を実施しています。このうち、主な事業の概要を記してみましょう。

  1. 研究助成・活動助成
    昭和63年を初年度として、神経症とその精神療法にかかわる研究や活動などを対象に、助成をおこなってきました。
    毎年、応募申請をもとに選考委員会において審査をします。この決定をうけて、これまで16年間に助成金を交付した総件数は851件(研究助成607件、活動助成244件)、助成金総計では4億5520万円となっています。年間の助成金総額は、これまでの最高は4000万円でしたが、現在は金利の低下により2000万円となっています。
    おもな助成先は、研究者またはそのグループで、医科大学(大学医学部)とその付属病院関係、国公私立の病院関係およびその他の研究機関です。WPA(世界精神医学会)横浜大会などにも助成しています。
    なお、この助成にもとづく研究・活動の成果のまとめは、報告論文などを収めた「研究助成報告集」(REPORT OF RESEARCH SUPPORT)として年1回、第1号から第15号まで刊行しています。全てサイズはB5版です。
  2. 心の健康セミナー
    平成元年から、大阪で開催している定員50人の講演会です。財団設立の当初より、神経症と森田療法をテーマとして2〜3か月おきに開催してきました。これまでの開催回数は84回をかぞえ、延べ4千人を超えるかたがたが熱心に受講されました。
    セミナーの内容は、「心の健康セミナー」と題して森田療法の概要について、精神科医らがわかりやすく説明しています。また、岡本理事長が財団設立の経緯から、ご自身の胃腸神経症を通して、心の健康の大切さを訴えられます。さらに、生活の発見会のメンバーによる体験発表や、質疑応答の時間を設けています。毎回、参加者の方から好評を博しています。開催にあたっては新聞広告(関西地区)を出し、受講者を募っています。なお、受講料は無料です。
  3. メンタルヘルス図書室
    平成2年9月に開設しました。場所は当財団事務局の隣室で、フロアの広さは66平方メートル(書庫を含む)です。
    この図書室は、心の健康づくりをテーマに図書、雑誌、ビデオ・録音テープなどを収集して、一般に公開しています。とくに神経症についての理解を深めるための、手軽に利用できる図書室を目指してきました。なかでも森田療法に関する図書を豊富にそろえています。現在、蔵書数は約6900冊、テープ類は約300本です。 また、開設以来の利用者数は、すでに延べ2万5千人を超えています。報道関係では、新聞・雑誌・テレビにたびたび取りあげられました。
    なお、図書室の「利用要項」は、つぎのとおりです。
    • 利用資格は、メンタルヘルス (心の健康)に関心をお持ちのかたなら、どなたでも利用できます。
    • 開室日時は、月曜日から金曜日までの、午前十時から午後五時までです。土曜・日曜・祝祭日・年末年始・夏期休暇・在庫調査日などは休室となります。
    • 利用方法は、《閲覧(または視聴覚コーナーの利用)》と《貸出し》です。どちらも無料です。(貸出しには、身分証明書「運転免許証または健康保険証など」の提示が必要です。)
  4. インターネットのホームページ
    平成8年に、インターネットのホームページ(https://www.mental-health.org[日・英])を立ちあげました。そこでは「神経症の人のためのホームページ」というタイトルで、神経症に関する各種の情報提供をしています。メンタルニュース19・20号でその特集を詳しく掲載しておりますので、ここでは簡単に紹介だけします。
    利用者は開設当初からしだいに増加しました。いまでは月平均50万ヒットのアクセス数を得ています。ことし8月の累計では、1800万ヒットに達する勢いです。
    なお、関連する機関ともホームページのリンクを図っています。
  5. 「メンタルニュース」
    年1回発行の、簡単なパンフレット新聞(B5判、8ページ立て)です。心の健康セミナーの参加者や神経症に関心を持っておられる方などに配布しています。
    紙面では、おもに神経症と森田療法についての解説、および当財団の一般向け事業の紹介などに重点をおきました。すなわち当財団の案内パンフレットを兼ねています。昭和63年に第1号をつくって以来、すでに第21号まで発行しました。

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