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メンタルニュースのご紹介

メンタルニュース NO.15


中国における「森田療法」

温泉潤

Wen Quanrun
中国森田療法応用専業委員会 秘書長
中国心理衛生協会 理事

1990年に中国心理衛生協会の招きで、日本から森田療法関係者が中国を訪問しました。以来、中国で森田療法が急速に広がります。その模様を温泉潤先生が綴ってくださいました。


まえがき

    ご存じのとおり、日本の精神医学者である森田正馬博士(1878〜1938)は、1920年ごろに東洋文化の特色を背景として、「森田療法」を創始されました。
    この森田療法がはじめて中国にもたらされたのは、1957年のことです。そのときは森田博士の高弟である、東京慈恵会医科大学の高良武久教授が中国を訪問し、北京、上海において森田療法についての学術講演をされました。
    しかし当時は、中国の政治理念が現在とはすこし異なりました。そういう関係で森田療法の実施は、それから20年あまりも重視されませんでした。
    その後、1981年になって、鐘友彬先生が医学書『国外医学・精神科分冊』で、初めて森田療法に関する論文を公表しました。以来、中国国内の雑誌に、しだいに森田療法にかかわる文章が発表されるようになりました。ちなみに統計をとりますと、1949年から1996年までに発表された文章は195編  にのぼっています。
    さて、1990年4月のことです。
    日本のメンタルヘルス岡本記念財団理事長・岡本常男氏を団長とする、森田療法代表団が中国を訪問されました。北京での、中国語版の森田図書の贈呈式に出席するためです。
    浜松医科大学・大原健士郎教授、生活の発見会会長・長谷川洋三氏など社会的な知名人と、生活の発見会会員などがその代表団のメンバーでした。
    このとき同時に、中国心理衛生協会が主催した講習会で、大原教授は「森田療法の歴史とその理論」を系統的にくわしく紹介されました。また、生活の発見会会員が、森田療法の学習によって神経症から再生した体験を話してくださいました。それは講習会の参加者(医師、心理学関係者)とって、大いに励みになりました。
    そのあと森田療法は、はじめて中国国内で発展をたどることになります。

中国の森田療法と岡本常男氏

    中国における森田療法の発展に岡本先生は、ひじょうに力を注がれました。その功績は大きいものです。
    1990年から岡本先生の援助のもとに、中国より仇一夫、劉建成、康成俊、崔玉華、李合群、李振涛らの医者が、日本国内での森田療法の研修をうけに参りました。そのあと彼らは中国で、森田療法の基盤をささえる担い手になりました。
    また岡本先生は、中国の学者を、いっそう森田療法への理解を深めさせるために、日本に招いてくれました。まず中国心理衛生協会理事長・陳学詩教授、同秘書長・温泉潤助教授。つづいて、北京医科大学・沈漁邨教授および回龍観病院・張向陽、王向群の諸先生などが、浜松医大、慈恵医大、三聖病院、高良興生院、生活の発見会を視察しました。
    そのあいだのことです。中国において、中国衛生部部長(日本の厚生大臣にあたる)陳敏章先生が、二度も岡本先生と会見しました。この会見をとおして、森田療法は優れた精神療法と認められ、中国での進展にたいへん役だちました。
    なお岡本先生は、森田療法の恩恵を受けたかたです。とくに、書物から多くの啓発をえた経験から、日本の森田図書の中国語版による発刊の必要性を思い立たれました。ついては、1990年から1996年までに中国で出版された翻訳図書(単行本)は、つぎのようになっています。

      『神経質の本態と療法』(森田正馬著)
      『森田精神療法の実際』(高良武久著)
      『森田療法とネオモリタセラピ−』(大原浩一・大原健士郎共著)
      『自分に克つ生き方』(岡本常男著)
      『心の危機管理術』(岡本常男著)
      『心配症をなおす本』(青木薫久著)
      『行動が性格を変える』(長谷川洋三著)
      『しつけの再発見』(長谷川洋三著)

    これらの図書は、中国の臨床医師が森田療法を学びその治療をするのに、重要なものです。同時に、さまざまな神経質の症状をもつ患者にも大きな貢献をしています。
    とくに森田療法の訓練を受けていない大部分の医師が、森田療法で治療をしようとしても森田図書がないときは、きわめて困難でしょう。調査によりますと、調査対象となった24か所の施設ではじっさいの臨床上、森田療法の書物は不可欠なものでした。

森田療法の実施状況

    中国では1990年からしだいに、森田療法を実施しました。まず天津医学院、北京回龍観病院、西安市精神衛生センター、山東地区の精神病院、および河北省、江蘇省などの地域が、それです。
    そして1996年6月までに、中国全国の約30以上の省と市などの地域62か所の医療機関で、この治療法が実施されています。そのうち、24か所は入院治療、37か所は外来で森田療法を行ないました。主として総合病院、精神病院、医科大学の付属病院、精神衛生研究所、中国医学研究院、心理健康諮問センター、および大学病院などです。  
    ところで、これまでの調査によりますと、各病院で実際に森田療法をたずさわる医師の数はだいたい1〜2人、看護人の数は約1〜15人、心理士の数は0〜2人となっています。
    また、これら24か所の病院で森田療法を行なった治療結果は、こうです。入院治療の改善率(良好改善を含む)はそれぞれ50〜100%、中程度成績(平均改善率に相当)は90%で、そうとう高い改善率を示しています。外来での改善率は65〜90%ぐらいになります。その平均値は70%です。
    中国において森田療法で治療する神経質症の種類は多く、まず強迫神経症、対人恐怖、不安神経症、普通神経症などです。現在、各病院でその適応症を広げるように努めています。
    たとえば、うつ病からはじめて、つぎに精神分裂症、各種の人格障害、ヒステリー症にも広がりつつあります。といっても森田療法を実施のさいには多くの病院で、その他の療法も併用しています。もっともよく併用されるのは認知療法、行動療法、精神分析法です。薬物療法も行なわれています。
    なお、森田療法が中国ですんなり受け入れられた要因は、その理論と実践方法が、医者と患者ともによく理解できるからです。したがって今後も、多くの病院で採用されて、いっそう重視されることになると思います。

森田療法に関する学術活動

    つぎに、おもな学術活動(学会)について記しておきます。
    1992年9月、天津において「第一回全国森田療法シンポジウム」を開き、参加者は200人近くにのぼりました。このとき学術講演としては、大原健士郎教授、藍沢鎮雄教授、北西憲二助教授、宮里勝政助教授、玉井光講師、伊丹仁朗医師がそれぞれ、森田療法に関する貴重な報告をされました。また岡本常男先生の「私と森田療法」と題する特別講演がありました。中国側も47編の論文と研究レポートを発表し、このシンポジウムで交流を深めました。
    1995年4月、「第3回国際日本森田療法学会」を北京において開きました。この学術シンポジウムには、世界14か国と中国各地の学者約300名が参加しました。106編の論文の提出があり、60名以上の中国と各国の代表が論文発表と報告を行ないました。森田療法を実施する医者たちは本会のシンポジウムで、森田療法の理論と臨床応用について語りあい、みずからの見方を深めるとともに経験の交流をしました。森田療法の国際シンポジウムを中国で開催したことで、森田療法の中国での推進に大いなる力を与えられたしだいです。
    そのほか、1990年から1996年まで中国の各地で、森田療法のシンポジウム、講演会、報告会を前後11回行ないました。  

中国での森田療法の研修

    いっぽう、1992年10月ごろ、ハルピン心理健康指導学校のなかに、はじめて森田心理訓練の講座が設けられました。学校式の森田心理訓練を始めたわけです。2年あまりで104人が訓練を受けました。
    学校式の森田心理訓練では、まず神経質症を、だれにでもありがちな神経質的な悩み、とします。そして神経質患者と精神科医師の関係を、教師と生徒としての関係とみなします。すなわち、ここでは森田療法を病院式から学校式に変え、学校で学ぶ@心理素質の訓練Aとして行なうわけです。
    森田博士は「神経質(症)は病気ではない」といわれます。森田心理訓練ではこの理論を、生活実践のなかで自己のパーソナリティ(性格)を生かす方法として用います。つまり神経質に悩んでいる人を、正常なパーソナリティ的人間として訓練のなかへ導きます。こうして、しだいに症状を軽減し消失させていくことによって、やがて各人の生活態度も徹底的に変わりました。
    また1990年以来、天津市は率先して、「生活と心理健康クラブ」を成立させました。つづいて西安市のおいても、日本の生活の発見会によく似た「生活発見会」を組織しました。
    おもな活動は、森田理論を基礎として集団で学習させることです。活動内容としては、講習、集団学習、懇談会、個人相談、講演会などです。
    おたがいに学びあい、助けあい、啓発しあって、神経質症の悩みを克服していきます。そして健康人としての生活をとり戻しました。しかし中国においてこのような組織は成立したばかりで、まだ普及の段階には至っていません。今後の大きな課題です。

これからの展望と発展は

    ここで、これまでに述べたことを要約しておきましょう。
    1990年、日本森田療法代表団の訪中がきっかけとなり、森田療法が中国に導入されました。その後、メンタルヘルス岡本記念財団の支援のもとに、中国で第1回森田療法シンポジウムを開催し、また第3回国際日本森田療法学会を行ない、森田図書もぞくぞくと出版しました。同時に、中国の各地で相次ぎ森田療法の治療組織が生まれ、約60以上の医療機関と関係組織で森田療法やその教育が行なわれました。いわゆる、中国独特の発展と普及を遂げつつあります。
    これで森田の理論導入から、いま、さらに具体的な発展をめざす階段に入ったわけです。

    いずれにせよ森田療法は、東洋文化を基盤とする心理治療に属しています。中国は伝統を重視する国です。森田理論の基本は、中国古代の老子・荘子の哲学思想のなかに含まれていますので、中国の人には受け入れやすいのものでした。ゆえに速やかに、中国で森田療法が進展することができたのです。
    なによりも中国は、世界で人口がもっとも多い国です。また神経質症の種類も多いといえます。それに近年の、改革開放による経済発展にともない、競争の機会も生じて、ここ十年来、神経質症の患者の数も増えました。さらに増加の傾向をしめしています。
    したがって、さまざまな中国の神経質の患者を引き受けられる、よい治療方法を望んでいました。そこで森田療法の理論は、多くの患者が習得しやすいうえ、実施のさいにも非常に経済的です。特別な精密設備もいらないし、とくに発展中の国家においては有用です。そんなわけで森田療法を受け入れ、同時に推し広げることが中国人民の望みです。森田療法は中国においてますます発展すると信じています。
    しかし森田療法の普及については、まだ端緒についたばかりです。
    浜松医科大学、東京慈恵会医科大学が中国からの研修生を何人か受け入れましたが、数が少ないのが実状です。ですから中国において森田療法を実施する専門医師の人数も少ないし、その理論理解も浅いといえます。いわゆる実際の技法は、森田図書から学んで真似たものです。
    現状では一般的に、医療機関の指導者は森田療法に対する認識が、まだ浅い段階にとどまっています。中国全土において森田療法はまだ普及しておらず、主として東部沿岸の経済発展が進んでいる地域でよく採用されているにしかすぎません。(地図参照)
    今後、大いに森田療法を宣伝し、社会の各界にその重視を呼びかけます。さきごろ、中国日本森田療法学会は、中国科学協会の認可を獲得して、正式に成立しました。
    ついては森田療法が、関係機関で採用され広く知られるために、岡本先生の支持を得て、中国森田療法発展基金会が設立できるよう、いま手続きをすすめています。
    もしこの基金会が発足すれば、ただちに、森田療法の理論と臨床応用を共同研究し、各種の学習班をつくり学術交流を行ないます。それに森田図書と雑誌を出版し、森田医師の養成や奨学金制度を設ける計画です。これをもって森田療法の学術地位を上げ、しだいに中国各地で森田療法の医療機関を成立させるとともに、日本の、生活の発見会のような森田理論の集団学習運動も起こします。
    中国には百万以上の人口をもつ都市は23もあります。中国日本森田療法学会および中国森田療法発展基金会の努力のもとでこれからも、森田療法の普及を図りたいたいと考えています。そのためには、衛生部(中国の厚生省)、教育部(中国の文部省)の行政の指導者に報告書を出し、ひとつの有効な心理治療方法として、広く心理学科や医学教育などの科目としても採り入れられるよう、地道に努力していきます。
    なお、やがては、森田理論と中国における実績が結合して、中国的な特色をもつ森田療法を創設すべきだと思います。長い目で見ると、中国における森田療法には明るい前途があります。

=短信=

フランス語の「森田療法」図書

    『神経質の本態と療法』(白揚社)は、森田博士の代表的な著作です。この本の趣旨を解説した、フランス語版の図書()がシンセラボ社から出版されました。フランスのお国柄らしく端正な装丁で、品のよい本に仕上がっています。

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