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■恐怖突入■

  • 強迫観念の単純なもので理解がよく、従順で、勇気のある患者は、上にあげた着眼点によって説得しただけで、治ることがあるのは、前の発作性神経症におけるように、すぐに恐怖のうちに突入することによって治るのである。

  • たとえば赤面恐怖の患者であって、電車に乗ることのできないのに対して、「勇気を奮い起こし、電車に乗って、自分の張り裂けるような赤面を衆人の前にさらしなさい」というふうに命じ、患者にすぐこれを実行させるようなものである。ある患者はこれによって、わずかに三、四日の間に多年の赤面恐怖を征服したことがある。これは一面から見れば、懺悔の心理にも相当したものであって、自分を赤裸々に衆人の前に告白発表するということによって、自我執着を去るものである。

  • およそ強迫観念の患者は、常に自己の恐怖に対して、もしこれに反抗し、あるいは、これをそのままに持ちこたえているときには、ますますその恐怖をたかめ、精神の葛藤をいよいよ重くするものにも相当したものであって、自分を赤裸々に衆人の前に告白発表するということによって、自我執着を去るものである。
    長年の不眠患者に「今夜は、眠れぬため当然徹夜で苦悶し悩むだろうから、その覚悟で寝なければならぬ」といって聞かせておいた。ところがその夜はしばらくして、思いがけず、いつの間にか安眠することができた。患者は翌朝私のところにきて、初めて恐怖突入の心境を体験しえたことを感謝したのである。

    この患者には、その前にも次のようなことを実験させたことがあった。それは夜寝るときに、「今夜、自分でもっとも心持よく寝られる姿勢はどんなものであるか、仰臥、足の位置、腕の置き所、枕と頭部との関係などを詳細に考えて、もっとも安楽に眠る工夫をしてみなさい」といいつけて実行させたところが、その夜は苦しくて、まったく安眠ができなかった。次にその翌晩は、今度は、「今夜は、はじめ寝たままに、どんなにきゅうくつな気持の悪い寝方でも、そのまま忍耐してけっして良い姿勢を選ぶことはしないで、夜通し眠らないでいる修業をしてみなさい」といいつけて、やらせた。
    翌朝、患者は喜びに満ちた顔つきで私のところにきて、昨夜は思わずぐっすりと眠って、はじめてその心持がわかったといって喜んだのである。つまり患者の予期し思想することと、事実すなわち、その主観的心境とはまったく反対であるということがわかる。これが思想の矛盾と呼ぶ理由である。

  • なお、このような患者に対しては、多数の強迫観念中、その軽いものからだんだんと、訓練療法をほどこし、その後ある時期を見て患者が最も苦痛とするものを選び、その恐怖に突入することを実行させるのである。
    ひとたび感じがその心境を体得すれば、他の種々の強迫観念は自然に消散するようになるのである。患者は従来できなかったことを、思いきってやることにより容易にできることを知り、このたびごとに大きな喜びを感じ、次第に勇気を増してゆくのである。
    強迫観念患者でも、この喜びと感謝との乏しいものはその治り方も悪く、意志薄弱者には、全くこの喜びがない。

(「神経質の本態と療法」森田正馬・白揚社)

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