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■思想の矛盾■

  • 思想の矛盾ということについて、少し説明を加えておきたいと思う。およそ思想というものは、私たちの体験的、主観的事実を外界に投影し、模型的に客観化したものであるから、ちょうど私たちの顔を鏡にうつしたようなもので、単に表面のかたちにとどまり、右と左の錯誤、矛盾のことが多い。
    それ故私たちは、思想をそのまま事実と信じて、これにとらわれるときには、しばしば鏡に向かってヒゲをそるのに、カミソリの向け方が思うようにならないと同様のことが多いのである。
    だから私が常に神経質患者に対して注意するところは、私たちはその思想にとらわれて、直接に、その行為を当てはめようとするときには、いたずらにくい違い、矛盾におちいることが多いから、思想は行動の見当をつけるにとどまらなければいけない。
    それはちょうど鏡に対して、単に顔の局所の見当をつけるにとどめ、カミソリは自然の手の運動にまかせるようにしなければならないようなものである、ということである。
    患者は眠る工夫をして、ますます不眠となり、苦痛を忘れようとして、ますますこれに執着するようになり、強迫観念を抑圧しようとして、ますますこれに悩まされるようなことは、すべてこの思想の矛盾にとらわれるためである、ということができる。

  • この思想の矛盾のために、私たちは日常、これにあざむかれていることが非常に多い。
    神経質患者はしばしば、「他の病気ならば仕方がないけれども、この病のためには死にたくない」とか、「他の苦痛ならば、どんなことでも忍耐するけれども、ただこの苦しみだけは、がまんができない」とかいい、あるいは不潔恐怖患者が、その手を洗う苦痛にたえかねて、「むしろこの手を切ってしまいたい」などということがある。
    みんな目前の自分の心をみずからあざむいている思想の矛盾であって、本当は自分が他のどんな苦痛にもたえられず、どんな病気にも死ぬことはいやである、ということに自分から気がつかないのである。
    これと同じ意味で、患者は常に自分の安逸、怠惰や責任の回避などを求めるために、この思想の矛盾によって、自分をあざむき、いろいろな口実をもうけて、自己弁解をしつつあるものである。

(「神経質の本態と療法」森田正馬・白揚社)

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