Kさんから次のような質問が寄せられました。
友人が「うつ病」という診断のもと、長期間いろいろな抗うつ薬を服用したがいっこうによくならない。本人は「統合失調症の陰性症状ではないか」と疑っているようだが、Kさんは「神経症の可能性」があるのではないかと考えている由。
長期間、慢性的に持続するうつ状態は診断も治療もなかなか難しいものです。ご友人の場合もいくつかの可能性が考えられます。第1は、主治医の先生が考えているようにやはり本態は「うつ病」だという可能性です。およそ2割くらいのうつ病の患者さんは経過が遷延するというデータがあります。もしそうであるなら、さらに薬物処方を工夫する必要があるでしょうし、また認知行動療法や森田療法などの精神療法を併用することが有効であるかもしれません。ちなみに入院森田療法によってうつ病の回復過程がリセットされる場合がしばしばあります。
第2は、「気分変調症」と呼ばれる軽症・慢性のうつ状態(通常2年以上持続する)である可能性です。Akiskal という米国の精神医学者によれば、気分変調症のおよそ3分の1は、うつ病が水で薄まったような病態で、抗うつ薬が有効です。しかし残りの3分の2はより性格要因が強く、このタイプには抗うつ薬はあまり効果がなく、治療の主役は精神療法になります。Kさんが「神経症のうつ状態」とおっしゃるのは後者のタイプを指しているのでしょう。典型的な神経質性格の方であれば森田療法がいいと思いますが、必ずしも神経質とは呼べないようなパーソナリティの方であれば、別のタイプの精神療法が適しているも知れません。気分変調症のために米国で開発されたCBASPと呼ばれる治療法(認知行動分析システム精神療法)がわが国にも導入され始めましたが、まだごく一部で試行している段階です。
第3に、ご本人が考えているように「統合失調症の陰性症状」である場合も、可能性は低いとはいえ否定はできません。統合失調症の陰性症状というのは、この病気の慢性期に目立つことの多い症状で、生き生きとした感情が鈍ったようになる、思考内容が平板で単純なものになる、意欲や自発性が乏しくなるといった状態です。こうした状態はうつ病や気分変調症との鑑別が時として難しい場合がありますが、一般には陰性症状に先立って幻覚や妄想、あるいは知覚過敏などの症状(陽性症状といいます)が短期間でも出現することが多いこと、また本人がこの状態をさほど深刻に悩まない傾向にあることなどが相違点です。
いずれにしても、うつ状態を鑑別するにはやはり専門医を受診することをお勧めします。元来の性格傾向や発症時の状況、現在の症状、これまでの経過(薬に対する反応性も含めて)などを詳しく検討する必要があるからです。
(中村 敬)